23-完.半熟なふたり


 ――防御スキル『プロテクション』発動


 山本の持つライフルから、スキルを込めた弾丸が発射された。

 それはモンスターたちの群れを抜け、司の胸に命中する。


 途端、彼女の周囲に眩いバリアが展開された。


 モンスターたちがその膜に触れると、ばいんっと弾き返される。


 司は恐る恐ると目を開けると、パッと顔を明るくした。


「お兄さん!」


「…………」


 モンスターたちの視線が、こちらに集まった。

 そいつらが、一斉に襲い掛かってくる。


「チッ。雑魚どもが」


 ライフルに魔力を込める。

 そして放たれた弾丸は、次々にそいつらを仕留めていった。


 モンスターの死骸の山が積み上げられると、司が駆け寄ってきた。


「お兄さん! 助けてくれてあり……」


 ――バチンッ!


 山本はその頬を引っ叩いた。

 司は目を見開いたまま、ぺたりとその場に座り込む。


「まったく、これだからガキは嫌いだ。自分勝手な理由で動き、大人がその尻拭いをするのが当然だと思ってやがる」


「…………」


「勘違いするな。おまえを助けたわけじゃない。ギルドマスターとして、うちの名を語る輩を駆除しに来ただけだ」


 ふと見ると、司の頬から涙がぽたぽたと流れ落ちていた。


 山本はため息をついた。


「泣いたら許してもらえると思うな。ほら、さっさと立て」


「…………」


 彼女の手を引くと、ダンジョンを抜け出した。



 …………

 ……

 …



 その翌日のバイトにて。


「えぇー。泣かしちゃったんですかあ」


「……わざとじゃない」


 山本は牛丼を盛りつけながら言った。


「だいたい、ダンジョンを舐めてるほうが悪い。最近のルーキーは、そのことをすっかり忘れている」


「もっと気楽にやればいいのに……」


「おれはギルドマスターだ。部下の安全を守る義務がある」


「ハア。ハイドさん、昔はそうじゃなかったじゃないですか」


「フン。昔のおれなど、思い出したくもない」


 あのころの自分。

 まさに半熟ハーフ・ボイルド野郎だ。


「おれは、あのひとに出会って変わった。あの再会の約束を果たすときまでに、あのひとを超える男になっていなければならない」


「あー。例のハンターさんですか? でも、もうずいぶん話を聞かないんでしょ?」


「いや、あのひとが引退などありえない。必ずまた、この世界に戻ってくる」


「世界で最も優れた万能型ハンター、でしたっけ。おれは見たことないから知らないんですけど、そんなにすごいんですか?」


「当然だ。おれはあのひとに命を救われた。あのときのことは、いまも忘れられない。小娘を助けたのは、あのひとならそうすると思ったからだ」


「ふうん。……あ、ハイドさん! それ盛りすぎ! 肉は表面にうっすらと!」


「あ、すみません」


 慌てて盛り直す。


「でもあの子。うるさかったけど、来ないと寂しいもんですねえ。ハイドさんだってそうでしょ?」


「馬鹿なことを言うな。あいつはもう二度と、ここに来ることはない」


 あんな仕打ちをされて、なおも食い下がってくる度胸があるとすれば。

 まあ、入団を考えてやらないこともないが。


「そうですかねえ」


 店長の視線を追って、店のガラス戸を見る。

 その向こうに見える人影に、山本は口元を引きつらせた。


 入店のベルが鳴った。


「お兄さん、わたし思ったんです! 確かにわたし、甘かったです! 他人の力に頼ってばかりだから、あんなことになるんですよね! わたし、もっと強くなりたいです!」


「……うるさい。静かにしろ。席につかないと追い出すぞ」


「あ、すみません!」


 いそいそとカウンター席に着いた。

 その前に立って、ハイドはため息をつく。


「……ご注文は?」


 にこりと笑うと、彼女は大声で告げた。


「わたしをギルドに入れてください!」

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