31-2.週末のご予定は


 そして連休の二日め。

 おれと姫乃さんは、駅で新幹線に乗った。


「ふんふふーん」


「ご機嫌ですね」


「そりゃそうよ。せっかくの休みなんだもの」


「でも、よく新幹線の席取れましたよね」


「会社の提携先が確保してる分を申請したの」


「え。それ、まずくないですか?」


「みんなやってるわよ。それより、あんたどっちにする?」


 差し出されたのは、カツサンドとシュウマイ弁当。

 さっき駅中の販売店で買ったものだ。


「あー。おれ、来る前に軽く食べちゃったんで、カツサンドのほうを……」


 すいっ。


 なぜか遠ざけられる。


「あの、姫乃さん?」


「なにかしら?」


「おれ、そっちがいいんですけど」


「わたしもこっちがいいの!」


「じゃあ、なんで別々の買ったんですか!」


「だ、だって買うときはおいしそうだなって思ったの。あんないい匂いさせてるほうが悪いのよ」


「じゃあ、そっちを食べればいいじゃないですか」


「で、でもいざ開けるとカツサンドのほうが……」


 優柔不断か。

 おれはため息をついた。


「……わかりました」


「あ、じゃあ、祐介くんがシュウマイ弁当のほうを……」


 おれはこぶしを握った。


「じゃんけんで」


「……あんた、そういうところあるわよね」


 みたいなことをやっているうちに新幹線の旅は終わり、乗り換えること一時間。

 おれたちは目的の場所にたどり着いた。


「……ここ?」


「はい」


「うーん……」


 まあ、言いたいことはわかる。

 おれは目の前の建物を見上げた。



『ダンジョン施設:みなもとファーム』



 どこからどう見ても、鉄筋コンクリートの建物だ。


「牧場って聞いたんだけど……」


「はい。牧場です」


「どう見てもダンジョンじゃない」


「まあ、入ってみればわかりますよ」


 中に入ると、受付のお姉さんが目をぱちくりさせた。


「あれ。業者さんですか?」


「いえ、見学を」


「あ、はいはい。それでは、えーっと、こっちの申請書に名前を……。あれ、どこやったっけ?」


 言いながら、カウンターの裏をごそごそやり出す。


 姫乃さんが袖を引く。


「……ねえ、大丈夫なの?」


「大丈夫、大丈夫。……たぶん」


「たぶんって、あんたね……」


「いや、おれも実際に来るのは初めてなんで……」


 そこでようやく、お姉さんが申請書を出してきた。


「はい、じゃあ、これに書いてね」


 おれはそれに記入すると、そのまま転移の間へと向かった。

 ドアの上に『一般入場者用』と書かれている。


「あら。装備は?」


「いえ、ここも装備は禁止です」


「えー……」


「まあまあ。それじゃあ、行きますよ」


 おれたちは転移装置に飛び込むと、そのダンジョンに降り立った。


「……うわあ」


 姫乃さんが、その光景に声を上げた。


 そこは紛うことなき、広い牧場だったのである。

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