8-5.そしてえらいことになる


「カゲワタリのウルトは、回数制限があります」


「そうなの?」


「やつは魔力を蓄積した尻尾を切り離してスキルを発動させます。つまり尻尾がなくなったら、また生えるまではスキルを発動できないんです。ほら。最初に発動させたあと、尻尾が短くなってたでしょ?」


「そんなの確認してる余裕なかったわよ」


「次に出たときに見てください。尻尾の復活までだいたい一日かかるので、その間にスキルを使い切らせればいいんです」


 あの長さからすると、おそらくあと一回が限界だろう。


 そして、その一回でこちらを仕留めに来る。

 それから主任を守り切れれば、こちらの勝ちだ。


 おれはカゲワタリが消えた場所の土をつまんだ。

 そこだけ砂の粒が魔力をはらんでいる。


「それ、どうするの?」


「こうするんです」


 それを舐めると、主任が目を丸くした。


「なにしてんの!?」


「あ、いや、揺らさないでください。ちょ、感覚がブレるんで……」


 主任がおれの肩から手を放す。



 ――追跡スキル『トレーサー』発動。



 途端、おれの視界に光の帯が生まれた。

 それはこの空洞から、洞窟の向こうへと伸びている。


「カゲワタリの尻尾が溶けた土は、強い魔力をはらんでいます。その魔力を取り込んで追跡すれば、やつがどこへ出たのかがわかります」


 おれたちはその光の帯を追って、洞窟を進んだ。


 やがて出たのは、先ほどよりも小さな空洞だった。

 他にモンスターの気配はない。


 ただ、じっとりとした視線だけがまとわりつくようだった。


「来ますよ。カンガルーの準備を」


「…………」


 主任が緊張した様子で、腰のベルトからカンガルーを外した。

 ゆらりと、空洞の片隅で魔力の揺れが発生する。


「投げてください!」


 主任がカンガルーを投げた。

 途端、それから微弱な振動が発生する。


 主任の足元の影から、カゲワタリが飛び出した。

 しかしその攻撃は彼女をスルーして、おれの『挑発』を込めたサブウェポンに向かう。

 狙い通り、やつはそれを一刀両断にした。


「主任、やってください!」


「任せなさああああああああああああい」


 主任が大剣を突き出した。

 それはカゲワタリのツノをとらえると、今度こそ粉砕した。


 カゲワタリがぽとりと落ちる。

 仰向けに倒れたまま、ピクリとも動かなくなった。


「……あら。死んでるの?」


「気絶したんです。いまのうちにモンスター核を剥ぎますよ」


 おれがナイフを準備していると、主任がカゲワタリをじーっと見つめている。


「……こいつ、こうやって見るとけっこう可愛いわね」


「ダメです」


「まだなにも言ってないじゃない!」


「どうせ持って帰って飼いたいとか言うんでしょ。ダメです」


「で、でもでも! こいつツノが折れると、戦意がなくなっちゃうんでしょ?」


「一か月で生えます。寝てる間に殺されますよ」


「うっ」


 まあ、その前に美雪ちゃんに止められるけど。


 実際、こういう理由でピクシーとかを現代に持ち帰るひとがいるらしいからな。

 いくら可愛くても、モンスターというのは危険な存在なのだ。


「ほら。さっさと解体して、土も持ち帰りますよ」


「こんなに可愛い子を解体するなんて、わたしにはできない!」


「うるさいですよ。さっさとしないと、今度からエピック・モンスターにつき合ってあげませんからね」


「あー! 足元見てずるいわよ!」


 主任はしぶしぶとナイフを持つと、解体作業を手伝った。

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