8-4.カゲワタリ


 ――探索スキル『エコー』。


 カゲワタリが前回ねぐらにしていたという空洞で、おれは探索スキルを放つ。

 空洞の天井にへばりつく、それらしき影を見つけた。


「……いました」


 四足歩行のトカゲ型モンスター。

 サイズは大型犬程度のもので、長いしっぽと額の鋭いツノが特徴だ。


「主任、いいですか。さっき説明した通り、ウルト持ちのモンスターを倒すときは先手必勝です。一撃で急所を狙いますよ」


「わ、わかった」


 主任も少し緊張しているようだった。

 そっと空洞を覗き込んだ。


 ――暗視スキル『猫の目』発動。


 おれはカゲワタリがいる場所を確認した。


 ……眠っている。

 これはチャンスだ。


 おれは無言で主任に合図を送ると、足音を殺しながら侵入する。


 カゲワタリの弱点は、そのブレード型のツノだ。

 唯一の攻撃手段であるそれを折られると、やつは戦意消失して動かなくなる。


 おれはジェスチャーで、主任にそのツノを狙うように指示する。

 まずはおれのスキルでやつを攻撃し、落ちてきたところを主任がとどめを刺す。


 と、思っていたときだ。


「くしゅん!」


「え……」


 なぜかこの場面で、主任がくしゃみをした。


「な、なにやってるんですか!」


「し、仕方ないでしょ! なんかここ、埃っぽくてムズムズするの!」


「ムズムズするじゃないですよ!」


 ハッとして見上げる。

 そうだ、主任を叱るよりも……!



 ――いない。



 カゲワタリの姿が忽然と消えていた。

 同時に、足元にわずかな魔力の揺れを感じる。


「主任! 跳んでください!」


「え。なんで?」


「いいから!」


 あぁ、くそ!


 おれはとっさに主任を抱えると、脚にブーストをかける。

 地を蹴って高く飛んだ瞬間、さっき主任がいた場所に黒い影が飛び出した。


 カゲワタリの鋭い斬撃が、空を切った。


「うわ、なにこいつ!」


「これがカゲワタリのウルトです! 影にワープして、標的の死角から攻撃を仕掛けます!」


 おれは離れた場所に着地した。

 カゲワタリはちろちろと舌を出しながら警戒している。


「はやく下りて!」


「わ、わかってるわよ!」


 主任を下ろすと、そいつと対峙する。


 さて、どうするか。

 おれが倒してしまうのは簡単だけど、それじゃあ主任が納得しないしな。


「主任。おれがやつの動きを止めます。その隙に、あいつのツノを攻撃してください」


「止めるって、どうやって?」


「こうやってです」


 おれは盾を構えると、それを剣の柄で叩いた。

 その振動が魔力によって増幅され、空洞の空気を震わせた。


 途端、カゲワタリの目がおれをとらえる。

 その場で跳躍すると、まっすぐおれを狙ってツノを突き出した。



 ――防御補助スキル『挑発タウント』。



 モンスターに幻聴を与えることで、攻撃を強制的に自分に集中させる。

 おれはカゲワタリの攻撃を受け流し、やつの力を利用して地面に叩きつける。


「いまです!」


「待ってましたああああああああああああああ」


 主任は大剣を振り下ろした。

 それがカゲワタリのツノと衝突する。


 そのツノに、わずかなヒビが入る。


 だが……。


 くそ、踏み込みが浅い!


 その攻撃はツノの破壊までは至らなかった。

 カゲワタリは壁に激突すると、その場でツノを振り上げる。


 スパンッと、やつは自身の尻尾を切り離した。

 その切れ端が地面に落ちた瞬間、そこに黒いワープホールが生まれる。

 カゲワタリはその中に飛び込んだ。


 ――トプンッ。


 あとには、わずかな波紋が広がるだけだった。


 やつの魔力を探索するが、すでにこの場所にはいない。


「……逃がしました」


「ご、ごめん」


「いえ。大丈夫です」


 まあ、これも想定の内だ。


「さて。それじゃあ、カゲワタリを追いますよ」


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