8-3.特別なスキルについて話しましょう



本日のクエスト


 お題:カゲワタリ討伐


 上層部に生息するカゲワタリの討伐

 モンスター核を収集、提出することでクエスト達成とする

 制限時間なし


 基本報酬:三万円

 追加報酬:カゲワタリの踏んだ土を提出、その量に応じて支払われる




 ダンジョンを歩きながら、おれは主任にきつく言いつける。


「いいですか。今回は、いつも以上におれの言うことを守ってくださいね」


「もう。わかってるわよ。まるでわたしがいつも勝手なことしているみたいな言い草ね」


 いや、勝手にこんなクエスト受けたのは誰だよ。


「だいたい、なにが違うっていうの? その、えーっと……」


「エピック・モンスターですか?」


「そう、それ。そんなに強いの?」


「……いえ、必ずしも強いというわけじゃないですけど」


「なにそれ?」


「エピック・モンスターに認定される基準は、それこそいろいろです。まず飛び抜けて強いやつ。弱いけど珍しいやつ。あるいは、とても特殊な生態のやつ。でも、やっぱり前提としてはウルトを持ってるかどうかですかね」


「ウルト?」


「ウルトラ・スキルの略です。その種の固有の必殺技のことですね。ユニークとか、アルティメットとも呼びます」


 きらりん。

 主任の目が輝いた。


「なに、それ! 格好いい! モンスターばっかりずるいわ!」


「いえ。ハンターも持ってますよ」


「……え?」


 主任は目を丸くした。

 まあ、ぜったいに食いついてくるとは思っていた。


「実は向こうの人間がこっちに来ると、その個性に応じて特別なスキルが得られるといわれます。それが発動する条件もそれぞれ違うので、結局、自分のウルトに気づかないひとも多いですけど」


「じゃ、じゃあ、わたしにもあるの?」


「あると思いますよ。ただ、どういうものかは自分たちで検証するしかないんですよね。それに固有スキルって言っても、常時発動パッシブ型だったり、自由発動アクティブ型だったり、適時変換スイッチ型だったり……」


 と、主任がおれの言葉を遮った。


「あぁーっ! もう、もっとこう、スパパッとわかる方法はないの?」


 ひとがせっかく説明してやっているのに……。


「まあ、ないわけではないです」


「じゃあ、すぐに試しましょう。いますぐよ。待てないわ」


「いえ、無理です」


「どうしてよー!」


 襟を掴まれて、がっくんがっくん揺らされる。


「いじわるしないで教えない!」


「や、やめてください。いえ、いじわるじゃなくてですね。そもそも、ウルトは特別な鑑定スキルを持ったハンターしかわからないものなんです」


「えぇ!?」


「『トリビア』と呼ばれるウルトで、世界でも三人しか発現していないSSレア・スキルです。彼らは日ごろから、モンスターの生態調査のために世界中のダンジョンを飛び回っているんですよ。ウルトの鑑定依頼をしても、まず取り合ってはくれないでしょうね」


「…………」


 主任はがっくりと肩を落とした。

 うわあ、見るからにテンションが下がってるなあ。


「まあ、モンスターハントやってればすぐわかりますよ。それに主任って素の攻撃力が高いし、意外にすごいウルトとか持ってるかもしれませんよ」


 主任の背がビシッと伸びる。


「そうよね! だってわたしだもの!」


 ……その自信、どこから来るのかなあ。


 とりあえず、この単純なひとをやる気にさせたところで――。


「主任、そろそろですよ」


 おれたちは、カゲワタリの生息するフロアへの階段を下りていった。

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