8-2.大物を狩ろう


 ぐだぐだと文句を言ってみるが無駄だった。

 とうとう『KAWASHIMA』の前に到着する。


「……ねえ、考え直しませんか?」


「うるさいわねえ。いい加減、観念なさい。いまは仕事ないんでしょ?」


「そりゃそうですけど……」


 まさか、仕事中に行きたいとか言い出すとは思わなかった。

 明日の仕事終わりまでも待てないとか、もはや中毒だな。


「……あとで怒られても知りませんからね」


「大丈夫よ。モンスターハントも喫茶店で携帯ゲームするのも変わらないわ」


 いや、大違いだろ。

 思っている間にも、主任はドアを開けた。


 ――カランカラン。


「こんにちはー」


 すると、カウンターの美雪ちゃんが目を丸くした。


「ど、どうしたんですか!?」


「あら。美雪ちゃん。今日、大学は?」


「いえ。今日は講義がないので……」


 美雪ちゃんがこっちを見た。


「ていうかマキ兄! どうしたの、クビ!?」


「いや、ちょっと時間ができてね……」


 前途ある若者に真実を言うわけにはいかずに、おれははぐらかした。

 その間にも、主任はるんるんと鼻歌交じりにクエスト一覧を眺めている。


「あ、これがいいわ」


「え?」


 おれはそれを覗き込んで、絶句した。



 ――カゲワタリの討伐。



 おれは思わず叫んだ。


「だ、ダメです!」


「どうして?」


「そいつはエピック・モンスターです!」


「なにそれ?」


「え、ええっと……」


 そういえばこのひと、講習受けてないんだった……。


「……モンスターには、その強さに応じて格付けがあります」


 まずノーマル。

 再出現リスポーンが早く、基本的にいつでも狩れるモンスター。

 例を挙げると、スライムやブラッド・ウルフなど。


 次にレア。

 再出現はやや遅い。

 こいつらは「味がいい」や「貴重なアイテムをドロップする可能性がある」など、いろいろな理由で価値が高い。

 イシクイやレッサー・バットの上位種がこれに当たる。


 そしてエピック。

 これは希少性が高く、下位のモンスターをまとめる力を持ったやつらだ。

 再出現も非常に遅く、倒されると半年は狩ることができない。

 静岡の『小池屋』で、おれが倒したゴリラ型がこれだ。


 ちなみにその上にいるのが、レジェンド・モンスターと呼ばれる存在だ。

 それらはオンリーワンで、一度、倒されると二度と出現しない。

 このダンジョンでは、トワイライト・ドラゴンがそれだと予測されている。


「というわけで、主任はまだ無理です。カゲワタリはエピックの中ではすごく弱い部類ですけど、パーティの平均レベルが30じゃないと……」


「あ、マキ兄! それは言っちゃダメ!」


 美雪ちゃんが、慌てておれの口をふさいだ。


「な、なに?」


「そんなこと言ったら……」


 見ると、主任がにまにましている。


「あんた、レベルいくつだっけ?」


「え。……78ですけど」


 そこでおれは、自分の失敗を悟った。


 ……あ、やべ。


「あんたとわたし、ふたり合わせて83ね。それを2で割れば?」


「よ、41、です……」


 きらーん。

 主任の目が光った。


「よし、これを申し込むわ!」


「ちょ、主任!?」


 止める間もなく、クエスト申請書を提出する。


「さあ、行くわよ!」


「ま、待ってくださいよ!」


 おれは彼女を追って、急いで更衣室に入った。


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