2-4.目標発見


 ランプをかざして洞窟を進む。

 ブラッド・ウルフは、この階層の奥のほうを縄張りにしているはずだった。


 つまり、それまで遭遇したモンスターも相手にしなければならない。


 バサバサバサバサ!


「主任、下がって!」


「わ、わ! なんなのよ、こいつら!」


「レッサー・バットです! 体勢を低くして走り抜けてください!」


 運悪く、コウモリ型モンスターの寝床に遭遇してしまった。

 おれたちはその襲撃を切り抜けると、ふうっと息をつく。


「もう、なんなのよ! 髪がぐちゃぐちゃ!」


「いや、そもそも主任が悲鳴を上げるからでしょ」


「だ、だってあんなのがいるなんて思わないでしょ」


 先ほどの様子を思い出したのか、ぞっと身震いする。


「あの天井にびっしりとぶら下がってる紅い眼。ほんと気味が悪いわ」


「あ、でもうまいんですよ」


「……なにが?」


「いや、レッサー・バット」


 特に羽の部分が珍味で、愛好家も多い。

 下層で採れた質のいいものは高値で取引されるんだ。

 まあ、こんな上層のやつでは味も微妙なものだけど。


 ……あれ。


「主任。どうして距離を空けるんです?」


「あんた。あんなの食べるわけ?」


「い、いや、前にダンジョンで遭難しかけたときに仕方なく……」


「あー、もう、やだやだ。こっち寄らないでー。バリア、バーリア!」


 そう言って両手の人差し指で『×』をつくる。


「子どもですか!」


「うるさい! わたしはあんなの食べないからね!」


 そうして、ずいぶんと進んだころ。


「……近いですね」


 濃密な血の匂いが漂っていた。


 おあつらえ向きに空洞がある。

 おそらく、ここをねぐらにしているのだろう。


 探索スキルで中の様子をうかがう。

 すると隅のほうにうずくまっている小さな影を見つけた。


「一匹ですね」


「あれ、もしかして怪我してるんじゃないの?」


 主任が空洞を覗いて言う。


「あ、いや。ブラッド・ウルフは……」


「チャンス! いますぐ仕留めるわよ!」


「ちょ……!」


 制止も間に合わず、主任が飛び出した。


「覚悟お――――!」


 ブオン!


 そして振り下ろされた大剣は、ズドンと地面に突き刺さった。


「あ、あら?」


 そこにブラッド・ウルフの姿はなかった。


「主任、危ない!」


「え?」


 主任の脇から、黒い影が飛びかかる。

 おれは慌てて手のひらを向けた。


 探索スキル『フラッシュ』!


 手から魔力が放たれて、それが眩いばかりに発光した。


『キャウン!』


 ブラッド・ウルフは悲鳴を上げて、向こうの洞窟へ逃げて行く。


 主任は呆然としたまま、ぺたんと座り込んでしまった。

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