2-3.持ち腐れとはまさにこのこと


「まず主任、大剣は広いところで使う武器です」


「当然でしょ」


「でも、ここって狭いですよね」


「そうね」


「というわけで、まず構えから見直しましょう」


 おれは主任の大剣を受け取った。

 それを脇に抱え、切っ先を前方に向ける。


「まず敵が来たら、こうやって踏み込んでください」


 おれは自分の身体ごと、剣を突き出した。


「これが基本です。ほら、やってみてください」


「う、うん」


 主任はおれの動作を見よう見まねでやってみる。


「うーん。最初だからしょうがないですけど、やっぱりぎこちないですね。それじゃあ、体重の移動がスムーズにいきません」


 剣の重さに負けて、へっぴり腰になっちゃってるんだよな。


「こうやって、お腹を前に突き出すようなイメージで……」


 言いながら、主任の背中を押した瞬間だった。


「ひゃあ!?」


「うわ!?」


 ばっと振り返ると、顔を真っ赤にしながら口元を引きつらせた。


「な、なになに。なんでいま、触ったの?」


「え。あ、いえ。構えを直そうと思ったんですけど……」


「あ、そ、そう。構えをね。そうね。構えは大事だものね」


「そ、そうですよ。構えは大事です」


 もう一度、主任は構える。


「こ、こう?」


「うん、さっきよりいいですね。あ、でも、もうちょっと……」


 びくっ。


 おれが手を伸ばした瞬間に、なぜか彼女の身体が強張る。

 不自然なくらい視線が前方から動かないし、耳まで赤くなっていた。


 うっわー。やりづれえ。


「……主任、そんなに緊張していると教えづらいんですけど」


「き、緊張なんてしてないわ。どこだって触ってちょうだい」


「待ってください! それじゃあ、おれが変態みたいじゃないですか!」


「ち、違うの?」


「違いますよ! どうしてそんなこと思ったんですか!」


 主任は気まずそうに視線を逸らした。


「……女ハンターとパーティを組む男ハンターの八割が下心ありってネットに書いてたわ」


「デマです! いや、そんなやつもいるかもしれませんけど、おれは違いますから!」


 というか主任にそんなセクハラした日には、会社にいられなくなってしまうよ。


「ち、違うの? ……そう」


 主任、ちょっと残念そう?

 いやいや。己惚れるなよ、おれ。

 こうして試しているだけだろう。


 だいたい緊急の会議だってそつなくこなすひとが、こんなことで狼狽えるわけないだろ。


 ……こういう人間関係で悩むのが面倒だから、パーティは組みたくないんだ。

 はやく主任が一人前になってくれれば、おれもソロに戻れるんだけどな。

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