2-2.ハントには適切な武器を


本日のクエスト


 お題:ブラッド・ウルフ討伐


 最上層部に生息するブラッド・ウルフの討伐

 モンスター核を収集、提出することでクエスト達成とする

 制限時間なし


 基本報酬:一万円

 追加報酬:ブラッド・ウルフの各部位の提出により査定



 というわけで、今日もおれたちは同僚たちの目を盗んで『KAWASHIMA』を訪れた。


「え、ブラッド・ウルフを狩るの?」


 美雪ちゃんにクエストを申請すると、案の定な反応だった。


「大丈夫? 黒木さん、まだあれ系に挑戦したことないよね?」


 あー。やっぱりそう思うよねえ。

 おれとしても、もうちょっと慣れてからのほうがいいかなって思うんだけど。


「まあ、実際にやったほうが本人も納得すると思うし」


「マキ兄がそう言うなら止めないけど……」


 申請が終わって、いつものように着替えを済ませる。

 転移の間にて、装備の封印を解いた。


「黒木さん、ファイト!」


 美雪ちゃんのエールに見送られて、おれたちは再びダンジョンに降り立った。


「……ねえ、そんなにブラッド・ウルフって強いのかしら?」


「あー。ウルフ系は狂暴ですけど、あいつらはそこまで強くないです。ただスライムよりはずっと素早いので、気をつけないと大変なことになりますよ」


「え。そんな強そうな名前なのに?」


「ダンジョン上層っていうのは、下層中層の生存競争に負けた連中の棲み処なんですよ。つまり最上層にいるのは弱いやつばかりです。まあ、見ればわかります」


「ふうん。じゃあ、どうしてそんなに嫌がるのよ?」


「いや、重要なのはそのあとというか。ところで、主任……」


「なに?」


「今日はその大剣は使わないので、ここに置いて行ってください」


「はあ!?」


 だきっと剣を抱きしめながら、主任が首を振った。


「い、嫌よ! 理由を言いなさい!」


「いや、この前のスライムでわかったでしょう? 最上層のモンスターたちは力が弱いぶん、素早い連中が多いんです。特にブラッド・ウルフはここでは最速なんで、そんな大ぶりの剣で戦うのは主任にはまだ無理です」


「でも、せっかく買ったのよ」


「主任が慣れたら、いずれ使えるときが来ますよ」


「やだやだ。それに武器がないと戦えないでしょ」


 ……この前、おれが徹夜でまとめた資料を「使わないから」ってボツにしたの誰だっけな。


「ほら、これを使ってください」


 おれは転移の間に立てかけられた古い槍を彼女に渡した。


「な、なにこれ?」


「武器って高いじゃないですか。でもモンスターによって向き不向きがありますよね。だからこういうところに、みんなが使える武器を用意しているんです。あ、使ったらちゃんと元に戻してくださいね」


 ここには川島夫妻が用意したものが一通り置いてある。

 主任はそれを手に取ると、あからさまに嫌な顔をした。


「……なんか、べたべたする」


「まあ、これまでたくさんのひとが使ってますからね」


「それに、変な臭いが……」


「モンスターの体液が染みついてるんです」


 ぽーい、と槍を放った。


「あ、なにしてるんですか!」


「嫌よ、いやいや! わたしはこれで戦うの!」


「子どもですか!」


「大丈夫よ。だって牧野が守ってくれるんでしょ」


「え、あ、それは、そうですけど……」


 ……こういうときばっかり、そういうことを言うのだから。


「……ハア。じゃあ、せめて正しい使い方を覚えてください」

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