41-2.けっ


「ほんっっっと、マジ勘弁しろし!」


「ご、ごめん」


 ハナはぷりぷりと怒りながら、部屋にあったスナック菓子をばりばり口に放っていく。


 キッチンのほうでは、主任もぷりぷり怒りながら昼食の準備をしてくれている。


「ていうか、おまえ、どうしたの?」


 まさか北海道から、家出してきたってことはない、よな?


「いやほら。マスターたちがハワイ旅行してる間、預かってもらえって」


「え?」


 ハワイ旅行?

 どゆこと?


 すると主任が、お手製パスタをお盆にのっけてきた。


「それって、この前のトーナメントの景品?」


「そう、それっしょ!」


 ああ、なるほど。

 確かあのとき利根チームがリタイア扱いになって、繰り上がりでどさんこが優勝になったっけ。


「はい、ハナちゃん」


 主任がパスタをハナに渡す。


「いえーい。いっただっきまーす!」


 すぐに我が物顔で、もりもり食べ始める。


 ……おや。

 盛られたパスタは二皿。


 そしてもう一皿は、主任が食べ始めた。


「あれ。主任、おれのは?」


「知らない。勝手に用意すれば?」


「…………」


 どうやら、まだご機嫌は斜めのようだった。


 ちら、とハナを見る。

 たぶん残ったパスタすべてを茹でたのだろう。

 その皿は、主任の四倍は盛られていた。


「な、なあ。ハナ、おれにも分けて」


「はあ? これはあたしの」


「そ、そう言わずに」


 ていうか、ああなったのって、おまえがいきなり部屋に入ってくるからじゃん。


「べーっだ。てめえが寝ぼけてんのが悪いっしょ。ていうか、これ、マジうまくね?」


「あら、ありがとう。向こうにソースの残りあるわよ」


「いやったーっ!」


 完全に餌付けされていらっしゃる。

 おまえ、ちょっとは亜人のプライドとかないわけ?


 ……でも、主任のパスタうまいんだよなあ。


 ぐうっと腹が鳴る。


 ……しょうがない。


 出かけるときに、コンビニでなにか買うか。


 キッチンから戻ってきたハナに、ふと疑問を投げる。


「そういえば、どうしてハナは行かなかったんだ?」


 あれって、三名のチケットだったと思うんだけど。


 するとハナは口元をべたべたにしながら、にやっと笑った。


「ま、あたしはハワイもナンパも興味ねえし? ちっとはマスターに奉仕してやろうかなって思ってー」


「はい?」


「あのままだと本当に一生、独り身っしょー」


「……はあ」


 ますますわからん。



 …………

 ……

 …



 その頃、成田空港――。


『ホノルル行きのお客さまは、搭乗口に……』


 出発ロビーで、向かい合う男女がいた。


「…………」


「…………」


 この暖かくなった季節でも、依然、黒ずくめの男。


 ――鉄血のハイド、もとい山本太郎。


 その正面に経つのは、慣れないお洒落に身を包む妙齢の美女。


 ――源さんこと、源氏ひとみ。


「い、行きましょうか」


 そう言って、ハイドが彼女の荷物を抱える。


「……は、はい」


 そんな二人の背中を見ながら、最後のひとり――佐藤ちゃんは吐き捨てた。


「ケッ」

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