19-5.決戦準備


 ――土曜日。

 おれは駅前でアレックスと合流すると、そのまま『マテリアル・フォレスト』に向かった。


「ねえ、ユースケ」


「なんだ?」


「昨日は、来なかったわね」


「……まあな」


「どうしたの?」


「ちょっと主任と飲んでた」


「ふうん」


 ずいっと顔を近づけてくる。


「そして、どうしたの?」


「……いや、帰って今日の準備をしたけど」


「……そう」


 アレックスは疑わしげなまなざしを向けながら、先に歩き出した。


「…………」


 ――そして先週と同じように、おれたちはダンジョンに降り立った。

 やはり同じ経路をたどって、『未踏破エリア』の入り口にたどり着く。


「仕込みはどうなった?」


「できるだけのことはしたつもりよ。でも、やっぱり相手のレベルがわからないことには……」


「……そうだな。あの騒乱の巫女が連れていたカマイタチは尋常じゃなかった。あれと同等だとすると、トゥルー・エピックとそれほど差はないと思う」


「……わたしたちだけで、大丈夫かしら」


 ふと、そんなことを言う。

 おれはその肩を叩いた。


「おれたちでやるしかない。他のみんなは巻き込めないだろ」


「……そうね。ごめんなさい、ちょっと弱気になっていたわ」


 おれはなにもない空間に向かって叫んだ。


「カンテラ!」


 すると空間が歪み、そこにケンタウロスの少女が立っていた。


「お兄さん! よかった、本当に来てくれたんだね」


「あぁ。マイロさんは?」


「……お母さんは、やっぱり無理だと思う。エレメンタルが弱っているせいで、病気が悪化してるんだ」


「わかった。おれたちに任せて休んでいるように言ってくれ」


「ありがとう。やっぱり、お兄さん。いいひとだね」


「……そんなことないよ」


 まるでヒーローのように持ち上げられては困る。

 おれはあくまで、自分のために今日の戦いに挑むのだ。


「時間が惜しい。エレメンタルのところに案内してくれ」


「うん!」


 そう言って、彼女はランプを掲げた。


「――清き炎よ、正しき道を示せ」


 ぐわりと景色が歪んだ。

 そして本当の道が姿を現す。


 おれたちは先日の湖のところに歩いて行った。

 その湖のふちに、モノケロースが座っている。


 その瞳が、じろりとこちらを見た。

 途端、びりびりとした威圧感で身体が強張る。


「こら、テンペス!」


 カンテラがそいつに走り寄って、そのお腹をなでた。


「このひとたちは、エレメンタルを守ってくれるんだよ!」


『…………』


 モノケロースは立ち上がると、前脚を持ち上げた。


 そして大地を踏み鳴らすと、大きく跳躍。

 そのまま木々を超えて、どこかへと消えてしまった。


「……ごめんね。あの子、ちょっと人見知りが激しいの。でも、いい子なんだよ?」


「いや、しょうがないと思う。おれがあいつでも、すぐに信用するのは無理だ」


 カンテラがにこりと笑った。

 その純粋なまなざしが妙に恥ずかしく、おれは顔を逸らした。


「……とにかく、今夜が山だ。最終準備に入ろう」


「うん!」


 そうして、おれたちは現代から持ち込んだ補助道具などのセッティングにかかった。


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