1-4.まずは拉致から始めよう
魔方陣に飲み込まれたおれたちは、ある場所に排出された。
「よっと」
「あだ!?」
ちゃんと着地したおれと、転移スキルに慣れずに再び転んだ主任。
そこは現代への転移装置のある最初の部屋だった。
一日三回までの緊急脱出スキルである。
「……主任。最初のときに言いましたよね」
「うっ」
「まずおれが倒し方を教えてからチャレンジするって約束したじゃないですか。なんで勝手に突っ込んだんですか?」
「だ、だって……」
主任はたじろぎながら言った。
「つ、次はわたしの好きにやるの。これは上司命令よ!」
「…………」
おれはにこりと笑いかけた。
がしっと主任の大剣を掴む。
「はあああ?」
ぐいっと引っ張って、がっくんがっくん揺らす。
「そもそも、モンスターハントは危険だから三か月の基礎講習が必要だって言ったじゃないですか! それを待てないってダダこねて、仕方なくおれのパーティってことで潜ってるんでしょう! 言うこと聞けないなら美雪ちゃんに言って出禁にしてもらいますよ!」
「ちょ、ちょっと、まって、ゆらさ、ないで。わ、わかっ、わかった、ごめんないってば」
主任を解放する。
「……ぐす。あんた、会社とキャラ違いすぎ」
「当たり前でしょうが! 毎年モンスターハントで命を落とすひと、けっこういるんです! そんなテキトーな心構えだと、本当に死んじゃいますよ!」
スポーツとは得てして危険と隣り合わせだ。
ルールを守らないと命にかかわるのはどれも同じである。
「じゃあ、行きますよ。今度はマジメにやってください」
「最初からマジメよ」
ぎろり。
「わ、わかった」
マッピングを頼りに、先ほどの空洞にたどり着いた。
おれはそっと人差し指を地面にあてる。
探索スキル『エコー』発動。
おれの指から放たれる微弱な魔力の波動。
それで空洞の様子を探る。
「……さっきのスライムたち、当然ですけど殺気立ってますね。いま入ると、一斉に襲いかかってきますよ」
主任の顔が青くなる。
「ど、どうするの?」
「とりあえず一匹ずつ移しましょう」
腰に吊った袋から、丸い丸薬を取り出した。
それを空洞に放り投げた。
――ポンッ!
軽快な炸裂音とともに、ピンク色の煙が充満した。
くん、と鼻を動かした主任が、ふらりと意識を失いかける。
「主任、口ふさいで!」
慌てて手のひらで彼女の顔を押さえた。
モンスター用の眠り薬だ。
……そろそろいいかな。
煙が薄れたときを見計らって空洞を覗く。
「よし」
スライムたちは、見事に眠っていた。
そもそも顔がないのだから、眠っていると考えるのは違和感があるけれど。
その一匹を掴んで持ち上げた。
むにむにしていて、妙に生温かい。
「じゃ、行きますか」
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