1-5.これはいい保湿パック


 転移の間の途中にあった空洞に、そのスライムを放り投げる。

 その衝撃で起きたらしく、もにょもにょと動き出した。


 とはいえ、まだ丸薬のせいで動きは鈍い。


「まずスライムの弱点を知っておきましょう」


「じゃ、弱点?」


 主任がいぶかしげだ。

 いや、まあ、気持ちはわからないでもないけど。


「モンスターには必ず弱点があります。それを知り、的確に突くことがモンスターハントの基本です。見てください」


 おれはスライムのうしろのほうを指さした。

 いや、前もうしろも同じようにしか見えないのだけど。


「ここに、ちょっと出っ張った部分があるでしょ」


「あ、ほんとだ」


「これがスライム核なんですよ。で、これを突くと……」


 こつんと剣の柄で叩いた。

 ぶるぶると震えながら、そいつは溶けて消えていった。


「え。こんなものなの?」


「最弱のモンスターですからね。こいつらはこの弱点を見せないために、前後のない姿なんです」


 スライム核を瓶に入れた。


「よし。じゃあ、あと基本報酬の五匹と、何匹か追加で狩っていきましょうか」


 ぶっすー。


「……なんで拗ねてんですか」


「べえつにー」


 うーん?

 むしろここから張り切る場面だと思うんだけど。


「あ。もしかして新しい剣、使えないからですか?」


「べえええつにいいいいい」


 面倒くさいなこいつ。


 おれはため息をついて、主任をなだめにかかった。


「まあまあ。次はちゃんと剣を使えるクエストにしますから」


 ぶっすー。


 参ったな。

 いまから戻っても、新しいクエストを受ける時間はないし。


 こうなると機嫌を直すのは大変だ。


「とにかく、今日はスライムなんで」


「…………」


 ご機嫌斜めの主任と一緒に、先ほどのスライム生息地に戻った。


 まだ丸薬の効果は切れていない。

 そっと空洞に侵入すると、こっそりとスライムを狩っていく。


「……こんなところかな」


 ふたりの基本報酬六匹と、追加で十匹ほど。


「ほら、帰りますよ」


 振り返って、おれは固まった。


「……ふふ。やっぱりこうでなくっちゃ」


 主任がなぜか大剣を抜いて、スライムに向いていた。

 そのスライムはすでに丸薬の効果が切れて、むにょむにょとうごめいている。


「いざ尋常に、勝負!」


 主任が大声を張り上げた。

 そして大剣を振りかぶって、再び突進する。


 ――シュバッ。


 びよーんと跳躍したスライムが、主任の顔面に激突した。

 そして顔を覆ってしまう。


「もが、もがもが!?」


 ……このひと、おれがどうして眠らせたのかわかってなかったのかな。


「主任。スライムって最弱ですけど、意外にすばしっこいんですよ」


「もがあ――――!」


 聞こえてないかあ。


 おれは主任にへばりついたスライムの核を突いた。

 すると、そいつはどろどろと溶けていく。


「……いくら剣はよくても、使い手がこれじゃなあ」


「う、うるさい! あぁ、もう! 服の中に入った!」


 彼女は慌てて、水場のほうへと走っていった。


「ちょ、主任! こんなところで洗う気ですか!」


「向こうに行ってなさい!」


「……ハア」


 おれは空洞から出ると、壁に背を預けた。


 しかし主任。暗いから見えないと思ってるんだろうなあ。

 おれはこっそりと顔を出した。


 実は探索のために、常に『暗視』スキルを発動していたりする。


 背中を向けた主任の露な肌が、はっきり見える。

 へえ。けっこう着やせするタイプなんだなあ。


 ――ドスン!


 おれの足元に、なぜか主任の大剣が突き刺さった。


「…………」


「あんた、こっち見たらただじゃおかないわよ」


「は、はーい」


 こういうときだけ、妙に勘が鋭いから困ったものだ。


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