1-完.結果だけ見れば赤字だけど


 さあて。

 転移装置で現代に戻って、楽しい楽しい報酬の時間だ。


 美雪ちゃんが瓶から出したスライム核を鑑定する。

 明るいところで見ると、青くてきれいな石なのだ。


「では、基本報酬の三千円×2。そして追加報酬が11体ということで……」


 差し出されたのは、一万円と八千円なり。


「あれ、多くない?」


「ひとつレアクラスがあったから、それは報酬が倍だね」


「へえ。ありがと」


 そこへ、主任がシャワーから戻ってきた。


「換金できた?」


「はい。では主任、どうぞ」


 一万円を差し出した。

 が、彼女はそれを受け取らない。


「……いらない」


「え? どうしてですか?」


「…………」


 どうしたんだろう。

 すると彼女は、気まずそうに視線を逸らした。


「あんたが倒したんだから、あんたがもらっときなよ」


 なるほど、一応は気を使ってくれているらしい。


 まあ、こういうときは無理に渡しても気まずいだけだしな。


「じゃあ、ちょっとつき合ってくださいよ」


「え?」


「美雪ちゃん。上はやってる?」


「もちろんだよー」


 カウンター横の階段を上っていくと、二階フロアに着いた。

 そこには仰々しい感じの扉がある。


『ダンジョン酒場:KAWASHIMA』


 まあ、ここのオーナーがやってる居酒屋だ。

 いまではダンジョンよりもこっちがメインという感じらしいけど。


「ハンターなら、報酬はやっぱ酒代でしょ」


 すると主任は、にやっと笑った。


「そうね。あんたにしてはいいこと言うじゃない」


「そりゃどうも」


 そうして、おれたちは終電まで次のダンジョンの計画を話していた。



 …………

 ……

 …



 翌日、会社にて。


「だ、大丈夫ですか?」


「あたま痛い……」


「だから言ったじゃないですか。飲みすぎるとよくないって……」


「う、うるさいなあ」


 出社すると、エレベーター前でばったり主任と出くわした。

 上がるボタンを押したところで、向こうからもうひとり走ってくる。


「あ、乗る、乗る!」


 隣の席の同僚だ。

 彼は慌てて駆け込んで、ふうっと息をついた。


「はあ、セーフセーフ。……って、主任!?」


 やっと気づいたらしい。

 主任は彼をじろりと見る。


「おはよう」


「お、おはようございます」


 二日酔いのくせに、一瞬で『鬼の黒木』に戻った。

 そこんところ、やっぱりさすがだよなあ。


「あ、それより聞いてくれよ」


 ひそひそと同僚が言う。


「昨日さ。帰りにちょっと駅前ぶらついてたんだけど、こんなの見つけてさ」


 そう言って見せたのは、見覚えのある青い珠。

 なんとスライム核を加工した携帯アクセだった。


「彼女に買ってったら、すげえ怒られてさ。こんなのよりハーピィの羽がいいって。そんなの高級店にしか売ってねえじゃん」


「そ、そうだねえ。ハハハ……」


「どうした?」


 突然、主任が同僚の胸ぐらをつかんだ。


 その背に、悪鬼羅刹の影が見えた。


「その女にスライムなめんなって言っときなさい!」


「は、はいいいいいいいいい!」


 チーン。


 エレベーターが止まって、主任が肩を怒らせながら出て行った。


「……な、なんなの?」


「さあねえ」


 おれは肩をすくめるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る