25-4.混ぜなくなったのは、いつからだろう


 おれたちは、源さんの家からほど近い場所にあるファミレスにいた。

 ボックス席でうなだれながら、ドリンクバーのジュースを飲んでいる。


「あー。辛い……」


「しっかりしろよー。まだ予定の半分も溜まってないじゃーん」


 そうは言ってもなあ。

 あの蝶が妨害してくるんだから、進行が遅くてもしょうがないだろ。


 もう夕方になろうとしている。

 あれから何度かトライしているが、そのたびにあの鱗粉を吸ってて身体に力が入らない。


「ていうかさあ。てめえ、すごいハンターだってマスターが言ってたくせに、ぜんぜん大したことねえじゃん」


「うるせえ。おれは補助スキル専門なの。ああいうカウンター型のモンスターとサシでやるのは苦手なんだよ」


 そういうときのための『風神』だったわけだけど。

 まあ、あの攻撃じゃバリアに防がれて結果は同じか。


「言い訳とかマジかっこ悪ぃーし。男なら背中で語って見せろよー」


「……自分はなにもしないくせにな」


 ゲシゲシとテーブルの下で足を蹴られる。

 だってほんとのことだろ。


 そもそもエピック相手に準備もせずにやれってほうが無茶だ。

 こいつがあの蝶の情報を少しでも持っていれば、もっと対策もあったんだけど。


「おい、ハナ」


「変態野郎が馴れ馴れしく呼ぶな」


「言ってる場合か」


 まったく、今朝のことをいつまで根に持ってるんだよ。


「おまえ、火炎系のスキル以外は使えないのか?」


「他のって?」


「ほら、魅了スキルであいつの動きを止めるとか」


「うーん。この格好になってから、ほとんど使えなくなったんだよねえー。マジ不便っていうかあー」


「……そうか」


 となると、あまり援護は期待できないな。


「とにかく、あの鱗粉を止めなきゃ話にならない。なにか手はないもんか」


「それを考えるのがてめえの役目だろー」


 なにを他人事のように。


 しかし、相手は鱗粉か。

 うーん。


「……おまえの火炎で洞窟の中を燃やし尽くすとか」


「無理だってばー。水属性ダンジョンだと、あたしのスキル威力半減だもん」


「そうだなあ」


 あー。身体がだるい。

 あの鱗粉に体力を奪われ続けて、もはや動くのもしんどい。


「……しょうがない。また明日、出直すか」


「えー、めんどくさあ」


 ハナが文句を垂れた。

 なら少しは協力してくれよ。


 あー、くそ。

 これなら、姫野さんと潜ってたほうが何倍も楽だなあ。

 あのひとが勝手に突っ込んで、それをフォローしてるだけでいいんだもん。


「……待てよ」


 突っ込んでく、ねえ。


「……やっぱ、もう一回だけやってみるか」


「お、なにか思いついたわけ?」


「うん、まあ」


 うまくいくとは思えないけど、物は試しだよな。


「よし、行くぞ」


「あ、ちょっと待つし!」


「なんだ?」


 ハナはコップを空にすると、いそいそと席を立った。


「まだコンプしてねえし!」


 そう言って、ドリンクバーのほうへと走って行った。


 ……うーん。

 まあ、おれも学生のころは同じようなこと言ってたなって。

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