25-5.そう、これこそが必殺の


「あー。マジ苦しいし……」


「そりゃ、あんだけ飲んだらな」


 まさか本当に全種類飲み干すとは思わなかった。

 とにかく、気を取り直してリトライだ。


「その前に、と……」


 源さんの家のキッチンを覗いた。

 彼女はすでに起きていて、温かいココアを飲みながらぼんやりしていた。


「あ、源さん。ちょっとお願いが……」


「……なに?」


 なんか目がぼんやりしてるけど大丈夫かな。


「ちょっと、失敗作の武器とかありますか?」


「……工房にかかってるの、使っていい」


「ありがとうございます」


 許可を取ると、おれたちはダンジョンに降り立った。

 源さんの工房で、壁にかかっている武器を見繕う。

 失敗作でも、おれがいつも使ってるのよりいいものばかりだ。


 ……頼んだら、どれかくれないかなあ。


「なにするわけ?」


 ハナが覗き込んでくる。

 おれはできるだけ鋭く、軽いものを選んで抱えた。


「近づけないなら、遠くから仕留めればいい」


「……はい?」


 おれたちは、エレメンタルのエリアにたどり着いた。

 あの蝶は、さっきと変わらない位置で構えている。


 おれたちの姿を確認すると、すぐに鱗粉をまき始める。


「ど、どうすんだよ!」


「こうするんだよ」


 おれは軽めの短剣を手に取った。


 ――五重の強化『タイラント・ブースト』発動


 スキルでおれ自身を強化する。

 そして短剣を右手に持ち、野球の投手の体勢を取る。


「……まさか」


「そのまさか!」


 大きく振りかぶって――。


 蝶に向かって、短剣を思い切りぶん投げた。


 ――ドスンッ!


 それは、わずかに蝶から外れた場所に命中した。

 バリアを貫通したところを見るに、やはり投擲攻撃は防げないらしい。


 おれは次の武器を構える。

 体力的にも、あと数発が限界だ。


 投げた。

 しかしわずかに逸れる。


 くそ、なかなかうまくいかない。

 こういうときに射撃スキルがあると便利なんだけどな。


「……ねえー。まだあー?」


 ハナは隅っこに座って、ヒマそうに欠伸をしている。


「……もっとこう、応援してもいいんじゃない?」


「だってえー。秘策っぽいのあると思ったら、武器投げるだけって。なんか拍子抜けっていうかあー」


「うるせえ! これけっこう大変なんだぞ!」


「はいはい。あたし、こっちで魔晶石集めてるからあー」


 ……まったく。

 おれは次の武器を構えて、やつに投げた。


「おっ!」


 それはきれいな直線を描きながら、蝶へと吸い込まれていった。


 ――ズズンッ!


「……あれ?」


 しかし、それは壁に突き刺さっていた。

 蝶の姿が、忽然と消えている。


「……やばい!」


 ――追跡スキル『トレーサー』発動


 やつの魔力の残り香を追う。

 それは投擲攻撃を飛んでかわすと、そのままハナのほうへと向かっていた。


「ハナ!」


「え?」


 彼女が振り返ったとき。

 その眼前に、蝶が翼を広げて迫っていた。


「危ない!」


 おれは飛び込むと、ハナを突き飛ばした。


 ――ぶわっ!


 同時に、顔面に向かって金色の鱗粉が噴射された。

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