42-6.ズバッとシュバッとね


 明美さん、初ダンジョン。

 ということで、今日は最上層の簡単なクエストを選んだ。


 運よくスライムが生息していたので、それをハントして帰るだけのやつ。


 うねうねした謎の生物を前に、明美さんが興奮気味に片手剣を構える。


「あ、あれがスライムなの?」


「そうだよ。ていうか、前に大会で見たことあるじゃん」


「な、なんだか、中継で見るのとは、違うのね」


 おっかなびっくり、それに近づく。


「ね、寧々。これ、どうするの?」


「ズバッとやればいいんだよ、ズバッと!」


 ……寧々は習うより慣れろ派だ。

 おかげさまで、有名ハンターなのに講習会とかの依頼はぜんぜんないらしい。


「ず、ズバッとね……」


 ……いまの説明でわかったのかな。


 明美さんが、スライムに近づく。


 そして両者が対峙した。


 ぷるぷるぷる。


「…………」


 きゅんっ。


「わたしには、できない!」


「あ、こら! 母さん、剣を手放しちゃ……!」


 きらん、とスライムの目(?)が光ったような気がした。


 ――シュバッ!


「か、母さん!!」


 寧々が魔力の糸を飛ばした。

 それがスライムを真っ二つにする。


「あらー……」


「だから、モンスターから目を離しちゃダメだって言ったろ!」


「え。寧々、そんなこと言ったかしら?」


 ※言ってません。


 おれはため息をついて、明美さんに近づいた。


「えっと、まず、片手剣はこう構えてください」


 そう言って、彼女の手を中段に整える。


「あらやだ。若い子に手取り足取り教えてもらうなんて、おばさん緊張しちゃうわ」


「ちょ、母さん!?」


「うふふ、冗談よう。寧々は独占欲が強いわねえ。誰に似たのかしら」


 すげえ気まずいので、はやく構えてくれるとありがたいのですが。


「あの丸いのがモンスター核なので、あれを狙ってください」


「うん、うん。じゃあ、やってみるわね」


 大丈夫かなあ。


 再び、両者が向かい合う。


「…………」


 ぷるぷるぷる。


「ていや!」


 ぺちん。


「ね、寧々! これ、倒せないわ!」


「ああ、ちょっと待った! ていうか、それ怒らせてるじゃん!」


「え、え? どういうこと?」


「いや、だからスライムは一撃でシュバッとやらないと、反撃がきちゃうんだよ!」


「い、一撃って、そんなの無理よう」


 寧々、下手か。


「えっと。じゃあ、まずはおれが眠らせるので、その隙に倒してください」


「あら。牧野くんは優しいわねえ。誰かさんとは大違い」


「……フンッ。遺伝のせいだよ」


 ……なんか、懐かしいなあ。

 主任も最初、こんな感じだったっけ。


 おれは睡眠効果のある煙玉を出して、それをエリアに放る。

 煙が薄れると、スライムたちが動かなくなっていた。


「じゃあ、やるわね」


「頑張ってください」


「えいや!」


 ぽこん。


 スライム核に一撃が入り、どろどろと溶けていった。


「やったのね!」


「やりましたね!」


 まるで仇の首でも取ったかのような喜びようだ。


 対して、寧々は澄まし顔で。


「まあ、このくらい普通だよな」


「やだ、この子、すごく生意気ね。ほんとに、誰に似たのかしら」


 二人の会話を聞きながら、おれは苦笑した。


 時計を見ると、スライム一匹に一時間はかかっている。


「……今日は、この辺で上がりましょうか」


 地上に上がって、おれたちは防具を返却した。

 外に出ると、すでに暗くなっている。


「あなたたちの様子を見に行ったのに、結局、遊んだだけじゃないの」


「それは、母さんがスライムに手こずってたからだろ」


「あら。寧々がズバッとかシュバッとか、意味わからないこと言ってるからよ」


 わからんかったんかい。


 でも、この二人、やっぱり仲いいよなあ。

 おれの実家も仲が悪いわけじゃないけど、こうやって話すことはないな。


 ……今度、久しぶりに帰ってみるか。


「……じゃあ、明美さん。おれは、今日はこれで失礼します」


「あら。ごめんねなさいねえ。また、ゆっくりお話ししましょう」


「はい。お父さんにも、よろしくお伝えください」


「うふふ。お父さん、ねえ」


 と、意味深な笑みを浮かべた。


 明美さんはそっと、うしろを見る。

 寧々は携帯で、さっきの店の予約を確認しているようだった。


「あのね、牧野くん」


「え? は、はい」


 すると、彼女はそっと近づいて。


「あなた――」

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