22-6.あおいくんぼっしゅーと
優花さんが、キラキラ眩しい笑顔で額の汗を拭った。
「これでよし、と」
ぱんぱんに膨らんだバッグ。
ずううぅぅぅっしりと重い。
「んぐぐぐぐ……!」
「あー。さすがにきついかな」
「や、やれます……!」
や、やばい!
明日、腰、マジでやばい……!
「うらっしゃあああああああああ」
がしっと肩に担ぐ。
よろめきながらも、おれは出口へ向かって歩き始めた。
「青井くん。わたしも持つよ」
「い、いいえ! おれにさせてください!」
なぜかムキになるのを感じていた。
どうしてか、このひとの前で格好いいところを見せたかった。
「でも、部活に支障が出たら……」
「いいっす! おれ、もう辞めるつもりなんで!」
「え、どうして?」
「え、えっと、ちょっと……」
力が緩んだとき、バッグがずしんと落ちた。
「うお、やべっ!」
「あ、怪我してない?」
「だ、大丈夫です」
たったこれほど歩いただけで、身体が悲鳴を上げている。
まあ、なんだかんだで、もう二時間もここにいるからな。
「それより、どうして部活を辞めるの?」
「あ、えっと……」
つい勢いで口走ったとはいえ、改めて聞かれると恥ずかしいことだった。
「……おれ、練習もついてくのもやっとだし、雅人みたいな才能もないし。それに、正直言って、バスケもあんまり好きじゃないんですよね。だから、もういいかなって」
「…………」
弱音と言えば弱音だ。
でも、いままでひとに言ったことはない。
だって、そんなこと言っても、誰もわかってくれやしないんだ。
「あ、よかったら、ダンジョンについて教えてくれませんか。今日だって、けっこう楽しかったし。おれ、本気でダンジョンやってみようかなって思ったんです。なんだったら、学校だって辞めたって……」
このひとなら、おれの気持ちをわかってくれると思った。
おれと同じ気持ちから抜け出すためにこの道を選んだんだから。
しかし――。
「……ふざけないで」
「え?」
優花さんは、ぎろりと鋭いまなざしを向けてきた。
それはあまりに冷たくて、おれの背筋にぞくっとしたものが走る。
「青井くんのそれは、ただの逃避だよ。ダンジョンは、そんな甘いものじゃない」
「え、だって……」
「だってもくそもないよ。結局、辛いからって乗り換えてるだけでしょ。そんな気持ちでダンジョンに潜っても、結果は目に見えている」
「…………」
なにも言えなかった。
否定の代わりに出たのは、情けない八つ当たりだった。
「じゃあ、どうしろって言うんですか! おれだって、好きでこんなじゃないですよ! 先輩とか、雅人みたいに、みんな最初から勝ち組じゃないんです!」
優花さんが、辛そうに目を伏せた。
その空気がいたたまれなくなって、おれはバッグを蹴った。
「あ痛っ! ……くそ!」
「あ、青井くん……!」
逃げ出すように走り出した。
うしろから彼女の声が追ってきたが、おれは無視した。
やがてどこかの空洞にたどり着く。
なにもない場所だった。
「……やべ。帰り道、わかんねえや」
言いながら、休もうと腰を下ろしたときだった。
――地面が抜けて、おれは長いトンネルを滑り落ちた。
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