31-9.vsゴーレム


「まずゴーレムの攻略法は二つです」


「え。普通に倒せないの?」


「レベルが低いならそれでいいですけど、アレが相手になるとあまり意味はありません」


 姫乃さんが落としたはずの左腕が、ぼこぼこと再生していく。

 脚から地面の土を補給しているのだ。


「わ、あんなのズルいわよ!」


「まあ、そういうわけで、ハンターの魔力が続く限りは再生します。だからひとつ目の攻略法は単純に、やつの魔力切れまで削り続けることです」


「なんか、そう聞くと単純ね」


「そう簡単な話ではありませんよ。魔法スキルの中でも、トークン系は魔力の消費が激しいスキルです。だから、よほど魔素の蓄積量に自信のあるハンターしか選びません。むしろ消耗戦はあっちの望むところなんです」


 ゆえに、おれたちの取る手段はもうひとつ。


「魔力の供給経路を破壊します」


「供給経路?」


「おれや姫乃さんも、スキルを使うときは身体に魔力を通して発動させます。それと同じで、あのゴーレムにも魔力の供給経路が存在するんです。それを切断すれば、動きを止められます」


「ど、どうやってそれを探ればいいのよ」


「おれがやります」


 おれは『十重の武装』に魔力を込めた。

 スキルのコードを入力し、それをゴーレムの周囲に展開した。


 ――四重の解析『ポリゴナル・トレース』


 ウルトの球体から発せられた魔力が、ゴーレムの魔力構造を解析する。

 そのデータはおれの脳に送られ、限りなく精密な内部構造を描き出した。


「……おそらく、やつの供給経路は左足から心臓部にかけて伸びています」


「じゃあ、左足を狙えばいいのね」


「そうです。ここはおれが囮になるので、その隙に姫乃さんが決めてください」


「え。わたしでいいの?」


「……えぇ。まあ、そっちのほうが適任ですよね」


「な、なんか気になる物言いね。でもわかったわ。任せてちょうだい」


 おれは『十重の武装』に再びスキルのコードを入力する。


 ――五重の強化『フライング・アクセル』


 身体強化の中でも、特に瞬発力と素早さを上げるスキル。

 さっきのでわかったが、やつはまだ力に余裕がある。

 おれでは正面からぶつかるのは得策ではない。


「いくぞ!」


 地を蹴った。

 素早くゴーレムの背後に回ると、その背中に連撃を与える。


 やつはぐるりと回った。

 腕を伸ばす直前、おれは一気に距離を取る。


「……やっぱり、ダメか」


 おれの攻撃した箇所が、簡単に修復していった。


 まだ動きのデータが欲しいな。


 再び足に力を込める。

 先ほどと同じように背後を取って、その背中に攻撃を加える。


 そしてやつが反撃に転じた瞬間に、離脱して――。


「――ッ!!?」


 一瞬、ゴーレムの背中がぼこっとうごめいた。

 その動きに気を取られた刹那に、そこから新たな腕が飛び出してきたのだ。


 それはおれの脚を掴むと、そのまま押し倒した。

 ゴーレムは覆いかぶさるようにマウントを取ると、そのままおれを窒息させようと身体を包んでくる。


「姫乃さん、いまです!」


「どおりゃああああああああああああああああああ」


 姫乃さんが、その左足にフォークを突き立てた。


 それは魔力の経路を切断し、ゴーレムの動きを止めることに成功した。


「や、やったわ!」


「いえ、まだです!」


 おれは急いで土の塊と化したゴーレムから起き上がった。

 同時に眼球に魔力を込め、『トレーサー』を発動させる。


 ――見えた!


 その左足から、地面に伝う魔力の糸。

 それを掴むと、おれの魔力をそのまま逆流させた。


「な、なにしてるの?」


「おれの魔力をあてることで、こいつを操るハンターの正体を探れます」


「あ、じゃあ、豚たちをさらっていた犯人がわかるのね!」


「そういうことですね。トークン系のスキルは、これで位置を割るのが定石なんで……」


 おれの魔力はやがて森林を抜け、あの防衛ラインを越えた。

 信じがたいけど、やはりこの犯人は外から……。


 ――ピタ、と止まる。


「…………」


「どうしたの? 犯人、わかったの?」


「いえ、その……」


 おれはその結果に、しばし呆然としていた。


「……ハンターじゃない」


「え?」


 おれは走り出した。

 牧場を渡り、森林に飛び込み、やがて防衛ラインが見える。


 ――こいつは!

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