7-7.女子会ストロベリートーク


「っはあ。うめえ」


 わたしは日本酒をあおった。

 こういうこともあろうかと、鞄に入れてきたのだ。


 まあ、本当はあのくそ牧野と飲む予定だったんだけど。


 と、黒木とかいう素人女がこっちを見ている。


「おまえも飲む?」


「……じゃあ、いただきます」


 そいつに猪口を渡して、酒を注ぐ。

 黒木はそれを飲みながら、ちらと牧野の消えた方向を見た。


「……あの、あいつはどこに?」


「ここのエリアボスを倒しに行ったんだよ。ボスに治められたエリアは、そいつを倒せばしばらくモンスターがいなくなるからな」


 数日がかりのハントでは、そうやって拠点を手に入れるのが基本だ。

 まあ、次のエリアボスが現れるまでの一時しのぎだけど。


「しかし、あの穴はどうすっかなあ。解放される条件がわかんなきゃ商売にならねえ。知り合いのハンター集めて、交代で見張らせるかあ」


「…………」


 と、黒木が大声を上げた。


「ひ、ひとりで!?」


「そりゃ、ここにはわたしたちしかいないだろ」


「なんでのんびりしてるんですか。助けにいかないと……」


 慌てて湯から出ようとする黒木のタオルを掴んだ。

 ずるりとそれがめくれて、やつの均整の取れた裸体が現れる。


「…………」


 わたしは自分の胸に手を当てた。


 ……くそ、なにが違うっていうんだよ。


 と、黒木が慌ててタオルを奪い取った。


「ふ、ふざけてる場合じゃないでしょう!」


「助けなんていらないって。わたしたちはここで待ってればいいの」


「で、でもでも……」


 思わずため息が出た。


「ハア。牧野のやつ、なんでこんな素人女と組んでるのかなあ……」


「そ、そういう言い方はしないでください」


「そりゃそうだろ。自分がどんな男とダンジョンに潜ってるか、知らないんだからさ」


「プロっていうのは知っていますけど……」


「ただのプロじゃねえよ。あいつは世界で初めて、万能型オールラウンドでマスタークラスに到達した人間だ」


 しかし、黒木はしっくり来ていないようだった。


「……それって、すごいことなんですか?」


「…………」


 こ、これだから素人は……。


 わたしはじっとその目を見た。


「プロハンターには一年に一回、ランク戦に参加する権利があるのは知ってるよな?」


「ダンジョンで模擬戦をするやつですか?」


「そう、それ。プロは大きく分けて、五つのランクがある。下からアンランク、シルバー、ゴールド、ダイアモンド。川島さんとこの美雪なんかはシルバーの上位だ」


 まあ、あいつはインストラクターとしてプロ免許を取ったから、それほどランクには固執していないのだろう。

 それでもまあ、実力はゴールド中位ってところだ。


「そんで、それらの頂点がマスタークラスな」


「……え」


 そこでやっと、黒木も理解したようだった。


「マスターランクは、その年の上位100人だけだ。まあ、あの頃はハンターなんていまの十分の一もいなかったけど」


 わたしは黒木の猪口を拾うと、それを押しつけた。


「わかった? おまえが行っても、邪魔なだけ」


「……わかりました」


 しぶしぶと湯の中に戻っていく。


 しばらく無言だった。

 微かに地鳴りのようなものが聞こえる、


 おー、おー。

 やってるねえ。


「寧々さんは、どうしてハンターを?」


 その言葉に、酒瓶を傾ける手を止めた。


「…………」


 まあ、この際だしいいか。


「……あれは、大学に入学したころだったなあ」

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