主任、大いなる序章というかなんというか
32-1.あのひとはいま
やっほー。
みんなのアイドル眠子ちゃんだよー。
普段は九州の地元で活動してるあたしだけどー。
最近は友だちの寧々ちんに呼ばれて東京に来ていまーす。
いつも『美しすぎる女ハンター』として引っ張りだこのあたしだけど、たまにはお休みも必要だよねー。
今日はそんなあたしの華麗なる一日に密着取材!
まずお昼に六本木のお洒落なオープンカフェでゆったりとした時間を過ごしたよー。
それから歴史にも興味のあるあたしとしては、博物館めぐりが鉄板だねー。
夜はもちろん、銀座のフレンチで友人と会食だよー。
ちょっぴり大人なあたしに、みんな惚れちゃうんじゃないかなー。
そして一日の締めくくりは、もちろんアダルティなおじさまとエレガントな夜をー。
嘘でーす。
朝、いきなり大師匠から電話がかかってきて「休みなら店を手伝え」って駆り出されてさっきやっと解放されましたー。
店に着いたのが朝の九時くらいで、外に出たのが終電間際だって。
もちろんお給料なんてもらえないよ。
労働基準法?
なにそれ美味しいの?
なんで牧やん周辺のひとって、あたしを便利屋さんみたいに思ってるのかなー。
ほんと勘弁してほしいよねー。
あー、もう疲れたー。
今日は一日、お昼寝してるつもりだったのになー。
さっきから青ぽんの着信がりんりんりんりんうるさいし。
ちょっと会えないからって男が毎日毎日電話してくんなよなー。
こういうとこ、ほんと牧やんとそっくりだよねー。
あー、もういいや。
帰って寝よう。
「……でも、たぶん無理だよねー」
あたしは下宿先――というか寧々ちんのマンション近くのコンビニでお弁当を買った。
その三階の角部屋に鍵を差し込んでドアを開ける。
がちゃ。
「ただいまー」
――ぷぅーん。
うっ。
リビングのほうからきっついお酒の匂いが漂ってくる。
「……また飲んでるのー?」
電気を点けると、テーブルで寧々ちんがグロッキーになってた。
周辺にはビールとかチューハイとかウイスキーとか、もうありとあらゆるお酒が転がっている。
ため息をつくと、買ってきたお弁当をレンジに入れた。
「いい加減にしてよねー。あたし疲れてるんだけどー」
「うーるーせー。おまえにわたしの気持ちがわかるかあー」
「わかりませんー。そんなに好きなら、いまから告っちゃいなよー」
「むりむりむりむりー。あんな格好よく去っといて、いまさらダサすぎるだろがあー」
「あたしにならダサいのを見せてもいいっていう考えは改めてくださーい」
「だっておまえ、そこそこわたしのこと興味ないだろー」
「そだねー」
「なんかそういう相手なら見せても平気」
「知るかよー。あたしお腹減ってるんだけどー」
チーン。
温まったお弁当を持ってテーブルにつくと、寧々ちんが膝に寄りかかってきた。
「うわーっ!」
また泣き出した。
牧やんが黒ぴーとくっついて半年近く経つのにこれだもんなあー。
「あー、よしよし。元気出そうぜー」
なでなで。
このひとが悪酔いすると、こうやって寝るまで待ってなきゃいけないのだ。
格好つけって難儀だなー。
もうさっさと諦めてピタ助と結婚しちゃえばいいのに。
「あー。そういえば、アレはどうすんのー?」
「アレ?」
寧々ちんが顔を上げた。
「ほらー、来月のー」
「あー。アレなあ……」
携帯でハンター協会のメルマガを開いた。
「……仕事詰まってるし、無理だろ。それに三人一組って、呼びかけんの面倒だしなあー」
「ふうーん」
あたしはそのメルマガを見ながら、ぽつりと言った。
「牧やん出るかなー」
ぴくっ。
「ま、あたしには関係ないしー。どっちでもいっかー」
がしっ。
「……なに?」
「……出る」
「はー? でも、お仕事あるんじゃ……」
「出るったら出る! そんで牧野たちをぶっ潰す!」
「うーわー。私怨丸出しで格好悪ぅー」
「うるせえ! おまえもわたしのチームだからな!」
「えー……」
あたしはため息をついて、その画面に目を落とす。
『モンスターハント・トーナメント開催決定! 出場者求む!』
あー、めんどくさー。
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