32-2.最後のひとり


 おれは、美雪ちゃんをじっと見つめていた。

 隣では、姫乃さんも固唾を飲んで見守っている。


「んー……」


 美雪ちゃんは腕を組み、さっきからうーんうーんと唸っている。

 明らかにこちらを焦らしているが、おれたちはなにも言うことができない。


 ただ彼女の胸のうちひとつで、おれたちの今後が決定する。


「ど、どうかな……」


 すると美雪ちゃんが、にやっと笑った。

 両腕をバッと胸の前で交差させると、大きな「×」をつくる。


「ざあーんねーん! わたしは寧々さんチームに入りまーす!」


「うがあ……っ!」


 まさか眠子に続き、美雪ちゃんまで先に取られるとは!

 美雪ちゃんは、にまにまとおれたちを見ている。


「ていうか、わたし寧々さんに誘われなくても、マキ兄のチームには入らないかなあ」


「な、なんで?」


「えー、だってさあ。せっかくの機会だし、勿体なくない?」


「だからなんの?」


 にやり。


「わたし、そういえばマキ兄と正面から対戦したことなかったなーって。せっかくだし、ここはどっちが優れているか白黒つけるチャンスだよねー」


「うっ」


 これは、なかなか気の抜けない戦いになりそうだ。


「そういえばピーターさんは? なんか調査が入ったとかで、まだこっちに滞在してるらしいじゃん」


「一応、誘ってみたんだけどさ。なんかあいつ、今回はゲストとして招待されるから無理だって言われた」


「あー、いま世界ランク五十位内だっけ。まあ、そんなの入れたら反則だよねえ」


 今回のトーナメントはアマチュアも参加オーケーだからなあ。

 確かにそんなのがいたら大会がぶっ壊れてしまう。


「……そういうなら、マキ兄だってすでに反則だからね」


「ま、まあ、おれたちは制限受けるし……」


 美雪ちゃんがため息をついた。


「お詫びというわけじゃないけどさ、わたしも空いてるひとがいないか当たってみるよ。もしダメでも、当日に弾かれたひと同士で組むのもアリなんでしょ?」


「まあ、それでもいいっちゃいいんだけどね」


「なんかあるの?」


「いやほら、姫乃さんと即席で組むとか、そのひとに申し訳ないなあって」


「あーね」


 姫乃さんが声を上げた。


「ちょっと、どういう意味よ!」


 まあ、言ってるまんまなんだけど。


「ところで、今回のテーマは『ハント』だっけ?」


「らしいね」


「『ザ・キューブ』が舞台かあ。シンプルなステージでいいよね」


 すると姫乃さんが聞いてきた。


「ねえ、テーマってなに?」


「あー。それは……」


 と、そのときだった。



「モンスターハントの世界ランク戦には、いくつか競技種目があるのだ!」



 うお、びっくりした。


 おれたちは、突然の大声に店の入口を見た。

 そこにはひとり、黒いロングコートに身を包む男が立っていた。

 襟を立て、その表情は読みづらい。


 ――あれ、あいつは。


 そいつはツカツカとブーツを鳴らしながら、こちらに歩いてくる。

 おれたちの前に立つと、バッとコートをたなびかせた。

 ひょいっとカウンターに飛び乗ると、威嚇するように足を組んで見下ろしてきた。


 にやあっと、その口角が邪悪な笑みを浮かべる。


「久しぶりだなあ、牧野センパイ!」


 おれたちは呆然と見つめていた。

 やがて、おれと美雪ちゃんの口から、その男の名が漏れた。


「利根?」


「利根さん?」


 姫乃さんだけが、ただきょとんとしていた。

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