14-完.禍根


 カマイタチの見えない斬撃が、おれたちに襲いかかる。

 おれは身体にブーストをかけると、主任と寧々を突き飛ばすように洞窟の奥へと転がった。


「つーか、なんなんだよ!」


「知るか! おれが聞きたいよ!」


 おれは急いで主任の身体を起こした。


「とにかく逃げますよ!」


 いまのおれたちには、あのカマイタチの攻撃を防ぐ壁役がいない。

 なにより正面から戦うには、あの人型モンスターが未知数だ。


 エスケープを発動する。

 が、うんともすんとも言わない。


 と、向こうから高笑いが聞こえた。


「ここに来たときに、あなた方のエレメンタルとのリンクを切らせていただきました。その緊急脱出スキルは使えませんよ」


 同時に、強い突風がおれたちを打ちつけた。

 目を開けると、そこにいたはずの主任が消えている。


「主任!?」


「ま、牧野……」


 見ると、彼女はカマイタチの腕に押さえられていた。

 その首筋に大鎌の切っ先を当てられている。


 向こうの暗がりから、ミコトが姿を現した。


「大人しくすれば、生きて帰して差し上げます。わたしの用事は、あくまであなたの記憶なのですから」


 そう言って、彼女はおれの前に立った。

 その翼の先で、おれの顎を持ち上げる。


 彼女の顔が、眼前に迫った。


「では……」


 唇が当てられようとした瞬間だった。


 ミコトの身体が、ぴたりと硬直した。

 その顔が苦痛に歪み、忌々しそうに吐き捨てる。


「チッ。あの汚らわしい老龍め……」


 その身体を見ると、無数の黒い帯のようなものが絡みついていた。

 それは地面や壁から伸びて、ミコトとカマイタチの身体を完全に縛りつけている。


 この魔力は、忘れようにも忘れられない。


 ――これは、まさか。


 ハーピィは小さくため息をついた。


「……わかりました。今日は諦めましょう。ただし次は必ず、我が姉の手がかりを得て見せます」


 彼女が触れた頬が、急に温かな魔力を放った。


「そのときまで、死ぬことは許しませんよ」


 そうして、おれの意識は真っ白になっていった。



 …………

 ……

 …



 おれたちが現代に戻ると、美雪ちゃんが迎えた。


「おかえりー。どうだった?」


「あぁ、大量だよ」


 スライム核を詰めた袋を置くと、それを嬉々としてそれを開けた。


「うっはあ! この色つや、いいね。いやあ、ほんとマキ兄たちには感謝だよ。やっぱりうちでも、これがいちばん需要あるからさ」


「足りそう?」


「行けると思う。本当ならゴールド・ラッシュの査定は翌日からやるんだけど、特別にすぐやったげるよ」


「ありがとう」


 主任たちのところへ戻った。

 ふたりはベンチに座ってぐったりとしている。


「うわあ、気持ち悪い……」


「くう、なんか吐きそう……」


 ため息が出た。


「……主任はともかく、寧々まで魔素酔いするなよ」


 あの高濃度の魔素の中にいると、こっちに戻ってきたときにこういう現象が起こってしまう。

 初めての主任はそうだが、まさか寧々までこうなってしまうとは。


「違えんだよ」


「なにが?」


「いや、なんか頭に変なもん入れられたみたいで気持ち悪いんだよ」


「なんだ、それ?」


 そうして、おれは換金されたその場で剣の代金を支払った。

 余裕があれば盾も新調しようと思ったが、それはまあ次の機会ということで。


「あ、そういえば」


 美雪ちゃんがつぶやいた。


「なに?」


「なんかマキ兄たちのパーティ、今日は四人で登録されてるんだけど」


「はあ?」


 おれはクエストの申請用紙を見た。

 本当に『編成:四名』と書かれている。


「いや、おれと主任と寧々だけだぞ」


「だよねえ。他のパーティと間違えたのかな」


 美雪ちゃんが不思議そうに首をかしげる。

 と、そのとき、ふと背後から呼ばれたような気がした。


 振り返ると、そこにはドアの閉まった転移の間があるだけだった。

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