35-完.どうすんだよ


『おれたち、【グレイ・ビーンズ@女の子ギルメン募集中】でーす!』


 ダンジョン内の中継から、チャラい感じの男性チームがカメラ目線でアピールしている。


『おれたち、いつも池袋で活動してまーす』


『毎月、西池袋で飲み会やってるんで、興味あるひとはラインしてねー』


『あ、もちろん女の子はタダなんで気軽に遊びに来てよー』


 ぱちぱち、とよくわからない拍手が起こった。


 アナウンサーに移る。


『各チーム、配置につきました。それでは予選Dグループ、スタートです!』


 ――ビーッ!


『ていうか、今日のトーナメント、女の子比率やばくねー?』


『わかるわー。さっきなんか冴えないおっさんが美人に囲まれててイラっとした』


『お前ら、始まってんぞ!』


『え、マジで!?』


『やばっ!』


 【ビーンズ】のメンバーが、慌てて散っていった。


 へえ、確かにそんなやつがいたらイラつくだろうなあ。

 あれ、もしかして利根のことかな?


「……ねえ、祐介くん」


「どうしました?」


「さっきから、トワちゃんが見当たらないんだけど……」


 え?


 見回すが、確かにいなかった。


「トイレとか?」


「もう、祐介くん!」


「す、すみません。でも、それじゃあ……」


「探しましょうよ」


「え、でも……」


 ダンジョン内の映像を見る。

 佐藤さん率いる【どさんこ+】が、最初のモンスターに仕掛けるところだった。


「……わかりました。まあ、トーナメントが終わるまでには戻れるでしょう」


 そうして、おれと姫乃さんはトワを探しに出た。

 さっきのテントにはいないようだ。

 もしかして、どこか外の施設に行ってるとか?


 ……あいつが亜人だってバレたってことはないよな?


「おーい、トワぁー」


 しかし、会場のどこにもいない。


「……ほんとにどこ行ったんだろ」


 と、会場から離れた建物の影に、ふと知った顔を見つける。


「……あれ、ピーターさん?」


 ゲスト席にいないと思ったら、ここにいたのか。


 あいつは誰かと話しているようだ。

 いったい、誰だ……?


 そこから離れて、こちらへ歩いてくる。


「姫乃さん、こっち!」


「あ、ちょっと……」


 とっさに建物の影に隠れてしまう。

 ピーターはおれはたちに気づかずに、会場へ戻って行ってしまった。


 そして、あとから歩いてきたのは――。


「あれ、トワ?」


 すると、彼女はこちらに気づいた。


「おや、お兄ちゃまではないかえ?」


「……おまえ、こんなところでなにを」


 と、言いかけたときだった。


 ――抱きっ!


「うお、なにすんの!?」


「お兄ちゃまあ。わしー、お腹空いたあー」


「なんだそのキャラ!? ていうか、いまおまえ、ピーターと……」


「あんなエセ外国人しゃべりの詐欺師風二枚目なんぞ知らんのう。夢でも見たのではないかえ?」


「いや、知ってんだろ!?」


 トワが、ハアとため息をつく。


「……しょうがないのう。いじるか」


「やめろ!!」


 そうぽんぽん頭の中いじくりまわされてたまるか!

 このままじゃぶっ壊れちまうよ!


「遠慮するでない。わしの接吻つきじゃぞー?」


 だからなおさら嫌なんだよ!


「あ、あはは。仲がいいのねえ」


 うわ、姫乃さんのおれを見る目がほんと害虫を見る感じだ!


「……おまえ、ほんとになにが目的なの?」


「さあてのう。こっちではミステリアスな女のほうがモテるんじゃろ?」


 どうにも、答える気はないらしい。

 なんとも納得のいかない思いを抱えたまま、おれたちは会場に戻った。


 そして――。



ポイント合計

【どさんこ+】――192

【ザ・利根!】――159

【グレイ・ビーンズ】――112

【神楽坂】――42

【117G】――38



『チーム【どさんこ+】、192ポイント獲得で、決勝進出です!』


 わー、と歓声が起こる。


 映像を見ながら、姫乃さんがつぶやく。


「……ま、負けちゃったの?」


「そ、そうですね」


 おいおい、この空気どうするんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る