主任、しばしの休息も必要です

36-1.いざ決戦へ


『予選のすべての日程を終了しました。敗者復活戦は明日の午前11時、決勝戦は午後2時からの開始です』


 アナウンスに、ぱちぱちと拍手する。


「はあー。じゃあ、帰りますかあ」


 時計を見ると、すでに午後の六時。

 朝から動きっぱなしだったことを考えると、なかなかハードな一日だった。


 と、寧々たちがこっちに手を振る。


「おーい。おまえら、もう帰っちゃうわけ?」


「まあなー」


「どうせだし、ちょっとメシ食ってこうぜ」


「いや、悪いけど明日も早いし……」


 がしっ。


 なぜか両端から腕を掴まれる。


「祐介くん、行きましょう!」


「え、でも疲れたじゃないですか」


「いいじゃない! イベントのあとにみんなでご飯とか、わたし楽しいと思うの」


 あー……。

 そういえば姫乃さん、高校ではぼっ……、ごほん、孤高のひとだったらしいもんなあ。

 きっと部活帰りのコンビニ買い食いとか憧れちゃうんだろうなあ。


 まあ、明日はおれたち午後からだしな。

 余裕もあるから、別にいいんだけど。


「……で、なんでおまえも掴んでるわけ?」


 トワが目をキラキラさせている。


「いいではないか! わしも行きたいぞ!」


 ぞ! じゃないよ。


「ていうか、おまえ、保護者とかどうなってんの?」


「おらぬに決まっとるではないか」


「え。じゃあ今晩、どうするつもり?」


 そもそもどうやってきたの?


「そりゃもちろん、お兄ちゃまが泊めてくれるんじゃろ?」


「は? い、いやいや! そんなことあるわけないだろ!」


「えー。お兄ちゃま、いたいけな妹をこの大都会に放り出す気かえ?」


 そもそも妹じゃないだろ。


「ひ、姫乃さんも、なにか言ってやってくださいよ」


「あら。わたしてっきり、祐介くんのアパートに泊まるんだと思ってたんだけど……」


 ちくしょう!

 記憶操作でしっかり外堀を埋められてやがる!


「妹さんの頼みくらい聞いてあげなさいよ。ちょっと部屋が汚いくらいじゃない」


「い、いや、別に部屋はいいんですけど……」


「えー。お兄ちゃま。相変わらず部屋が汚いのかえ? お母ちゃまが一人暮らしになったら自分で片付けなさいって言っておったじゃろうに」


 お母ちゃまって誰よ?


「しょうがないのう。ここは今晩、わしが部屋をきれいにしてやろうかのう」


「よ、余計なことすんなって!」


 寧々が携帯をぽちぽちやりながら言った。


「なあー。おまえら、なに食いたいー?」


「マキ兄! わたし焼肉がいい!」


「牧やーん。わたしお寿司ぃー」


「いや、なんでおれがおごる流れになってんの?」


 はあ、もうしょうがないなあ。


「じゃあ、ほら、あれでいいだろ。そこのファミレス」


「うわ、マキ兄、しょっぱ!」


「太っ腹なとこ見せろよー」


 うるせえ、おまえらおれより稼いでんだろ!


 わいわいと移動していると、ふと向こうの信号に見知った顔を見つける。


「あ、おーい、利根」


 呼びかけると、ぎくりと振り返った。


「予選、残念だったなあ」


「ま、まだ終わったわけではないだろうが!」


 すると寧々がガン飛ばしにかかる。


「ハッ。残念だが、敗者復活戦はわたしらがもらうに決まってんだろ」


「ふ、フフフ! 吠え面をかいても知らんぞ?」


 バチバチ火花が散ってるけど、あいつらは放っておこう。


 と、牡丹と紫苑の双子が話しかけてくる。


「牧野さん! どこに行くんですか!?」


「もしかして、お夕食ですか!?」


「まあ、そんな感じだけど」


「ナイスタイミング、わたしたちもご一緒します!」


「ご安心ください、お会計はくそリーダーが持ちます!」


「うおーい! おまえら、勝手なことを言うなあ!」


 え、マジで?


「そっかー。じゃあ、いっしょに来る?」


「やった! ほらくそリーダー、財布よこしな!」


「ご本人は視界から消えて結構だから! じゃね!」


「おまえら、ひどすぎるぞ!」


 いやあ、ラッキーラッキー。

 そういや利根って、海外でプロやってるんだもんなあ。


「じゃ、ちょっと高いとこ行っちゃおうか」


「牧野さん、さっすがーっ!」


「ノリいいおじさま、だあーい好き!」


 おれたちのやり取りを聞きながら、美雪ちゃんがため息をつく。


「……マキ兄って、ときどきただのくそ野郎なときあるよね」


「どうかーん」


「否定できないわね」


 ……調子乗ってごめんなさい。

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