17-3.トラブルは向こうからやってくる


「さあさあ、お姉さん。どうぞどうぞ。この焼酎、うちの地元でつくってるんですよ」


「あ、こっちのカニとかどうですか?」


「おい、こら。おまえら抜け駆けすんな。ここは年長組からだろ」


「うるせえ! おっさんどもは向こうで麻雀でもやってな!」


「んだとこら、この餓鬼どもめ。しばらく甘やかしてたら生意気な口を利くようになりやがって。きっちり教育してやらあ!」


「やれるもんならやってみやがれ!」


 ――ガツンッ。


「やめるでごわす!」


 いい大人たちが、西郷さんのゲンコツで静かになった。

 彼らに次々にお酌されていた主任が、慌ててこっちに駆け寄ってくる。


「ま、牧野! どこ行ってたのよ!」


「ちょっと西郷さんとマンドラゴラの様子を見に行ってました。というか主任。このひとたち適当に断らないと、どんどん注いできますよ」


「しょ、しょうがないでしょ。無下にするのも悪いじゃない」


「……相変わらず下手ですねえ。そんなんで会社の飲み会とか大丈夫なんですか?」


「い、行かないからいいの」


「いや、さすがに忘年会とか歓送迎会は出なきゃダメでしょ」


「そのときは牧野がいるじゃない」


「いや、おれだってカバーできるのは限界が……」


 つんつん。

 振り返ると、眠子がハンモックの上でぐったりしながら言った。


「牧やん。そこはあれだよー。肩を抱いて『まったく危なっかしいな。おまえはおれのそばにいろ』ってキメるとこだよねー」


「……おまえら姉弟の、その微妙なセンスの古さはなんなの?」


 見ると、なぜか主任が緊張した様子で固まっている。


「……いや、主任? やらないので大丈夫ですよ」


 と、なぜか彼女はおれを睨んで。


「……はあ」


 と、大きなため息をついた。


 ……なんで不満げなんだよ。


「それより、飯食いましょうよ。ダンジョン食材の中でも海鮮系は特に足が早くて、向こうじゃ滅多に食べれませんからね。ほら、カニありますよ、カニ」


「あ、牧やん。それわたしが育てたやつー」


「うるせえ。いくらでもあるだろ」


「うわー。これパワハラじゃーん」


 主任がカニの脚をもぐもぐしながら首をかしげる。


「そういえば、向こうってダンジョン食材を置いてるとこ少ないわよね。どうして?」


「ダンジョン食材って、魔素がないところだと腐るのが早いんですよ。そういう理由で、ここもダンジョン施設と薬品の研究施設が併設されているんです」


 だから『KAWASHIMA』とか『陣』は貴重な店だ。

 遠方に運ぶ手段もあるけど、かなり手間がかかるからな。


 と、おれたちがわいわい騒いでいるときだった。


「おい、西郷」


 振り返って、おれたちはぎょっとする。

 そこには顔に大きな傷痕を持つ、目つきの鋭い男が立っていた。


 そのコートには『疾風迅雷』の紋章。

 西郷さんは歓迎の声を上げた。


「おぉ、ハイドどん!」


 ハイド?


「だ、誰……?」


「あぁ、確か『疾風迅雷』のリーダーですね」


「へえ。なんか、恐そうなひとね」


 すると、そのハイドという男はなぜかこちらを見る。


「……おまえら。確か、今日、ここを出禁にした連中か」


 ぎくり。


 慌てて西郷さんが間に入る。


「ハイドどん。このおひとはうちのお客でごわす。文句はやめてほしいでごわすな」


「……そんなの下の連中が騒いでいるだけだ。おれは知らん。それよりも、お前ら。昨日、ちょっかいを出したうちの若い衆を見なかったか?」


「え? いや、見てませんけど……」


 彼はちっと舌打ちする。


「ここも違ったか。じゃあ、間違いねえな」


「なにかあったんでごわすか?」


「……あいつら、おれの言いつけを無視してハワイのほうへ渡ったらしい」


 西郷さんの顔が真っ青になる。


「な、なんですとお――――!?」

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