17-4.いざハワイ


「ねえ、それってなんか大変なの?」


「あ、えーっと……」


 そういえば、主任に言うの忘れてたな。


「あの島は、アンデッド族が生息するダンジョンなんですよ」


「……は?」


 主任の顔が真っ青だ。


「アンデッドって、アレ?」


「アレです」


「あの、ガイコツとか、幽霊とか……」


「ガイコツとか幽霊ですね」


 モンスターの中でも、特に危険とされている種族。

 やつらの活動にはいろいろと制限があるけど、もし遭遇したらまず逃げろ、決して戦ってはいけないと、講習でも口を酸っぱくして教えられる。


「このダンジョンってモンスターがいないんじゃなかったの?」


「いや、向こうは別のダンジョンなんですよ」


「そうなの?」


 このように、近い空間に二つのダンジョンが存在することもある。

 向こうは確か、アジア大陸のどこかにつながっていたはずだ。


「しかも、もうすぐ日が暮れる……」


 空を見れば、西の海に太陽が沈んでいく。

 夜になればアンデッド族は眠りから覚めて活動を始める。


「ハイドどん。すぐに救助に向かうでごわす!」


 西郷さんの言葉に、しかしハイドはとんでもない返事をした。


「知ったことか。自業自得だろ」


「な……っ!?」


 彼は淡々と告げる。


「おれたちの仕事はマンドラゴラの防衛だ。自分勝手な行動をとるなら、それは反逆と同じこと。うちのメンバーには、そのように言い聞かせている」


「で、でも……」


「くどいぞ。助けたいなら、おまえらで勝手にやれ。おれたちは手を貸さん」


 そう言って、ハイドは行ってしまった。


 先ほどとは一転して、重い空気がのしかかっている。


「……ねえ、牧野。どうしよう」


「はっきり言って、ハイドさんの言う通りだと思います」


 主任がむっとする。


「あんたまで、そんな冷たいこと言うの!?」


「ギルドのリーダーっていうのは、メンバーを守る義務があります」


「そ、それなら……」


「もしあの若い子たちを助けるために、みんなでハワイに渡ったとします。その結果、それ以上の死傷者が出るかもしれない。リーダーとは、常に大多数を守るために心を鬼にしなければなりません」


「……牧野」


 眠子がそれにうなずく。


「そーそー。それに、あのオッサンの言った通り、自業自得なんだからさー。助けが来ないなんて当たり前だよねー」


「……眠子ちゃん」


 主任が訝しげに言う。


「……なんで二人とも、装備を着てるの?」


 ぎくり。


「いや、ほら。ちょっと久しぶりにアンデッド族と戦ってみたいかなーなんて……」


「いやー、わたしもほらー。昨日の焼き肉、食べ損なったぶん払ってもらわなきゃなーって……」


「…………」


 主任がため息をつくと、自分の装備を抱えた。


「……あんたたち、そういう素直じゃないとこそっくりね」


 と、うしろから西郷さんが言った。


「おいどんも行くでごわす」


「え。いいんですか?」


「もちろんでごわす。おいどんの参加するクエストで死人など出した日には、お天とさんに顔向けできませんしなあ」


「西郷さん……」


 彼はにかっと笑う。


「それじゃあ、行くでごわすよ!」

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