17-5.海を渡る


「うひゃあああああああああああああああああ」


 主任が悲鳴を上げる。


 どっぼんどっぼんと揺れまくる船上で、おれたちは必死に掴まっていた。


「眠子! もうちょっと安定させて走れないのか!?」


「えー。面倒じゃーん」


「おまえはよくても、おれたちはきついんだよ!」


「しょうがないなー」


 眠子が人差し指を回した。

 途端、船の揺れが収まって、多少は楽になる。


「わっはっは。牧野どんの仲間は楽しくていいですのう!」


 このひと、余裕だなあ。

 おれがぐったりしていると、主任が船の床を物珍し気に触っていた。


「……でも、まさかこんなことができるなんて」


 おれたちが乗っているのは、まるでおもちゃをそのまま巨大化したような船の模型。

 その表面はざらざらとしており、触れると指に砂の粒がつく。


 眠子が土でつくった即席の乗り物だ。


「ゴーレムの応用だそうですね」


「でも、これ土なんでしょ? どうやって動いてるの?」


「逆です。海の水を操って、この船を運んでるんですよ」


「え。でも眠子ちゃん、土の魔法スキルの使い手じゃないの?」


「いえ。こいつは基本、なんでも操作できますよ」


「なんでも?」


「はい。なんでも」


 見ると、眠子がだらだら寝転がりながら土でゴーレムをつくって遊んでいる。


「……こいつ、昔から操作系のスキルだけは抜群で、大概の属性は使えますよ」


「やー。牧やん、昔から魔法スキルだけはてんでダメだもんねー」


「いや、べつにおれは魔法スキルなんて……」


「えー。わたし知ってるんだー。牧やん、わたしが魔法スキル使えるってわかって、魔法スキル必殺技ノート捨てたって寧々ちんが……」


 ――ズガンッ!


 おれのゲンコツは、船から伸びたゴーレムの腕に止められる。


「おまえのそういうところがむかつくんだよ!」


「やーいやーい。牧やん、大人の嫉妬だー」


「うるせえ! おまえがおかしいんだよ!」


「しょうがないじゃーん。だってできちゃうんだからさー」


 ――イラッ!


「ま、牧野! ストップ、ストップ!」


 おれの手が剣に伸びたところで、主任が割って入った。


「もう、大人げないわよ」


「しゅ、主任にはわかんないっすよ! いいですか、魔法スキルっていうのは男の憧れなんです! ビームソードとか、一度はやってみたいじゃないですか!」


「わ、わかった、わかったから」


 主任がため息をつく。

 なんだ、なんでおれが悪いみたいな空気になってるんだよ!


「……それにしても、ちょっと意外ね」


「なにがですか?」


「眠子ちゃん。あんまり他人のために積極的に動くような子には思えなかったから」


「あぁ、それですか」


 ……まあ、そうだよなあ。


「あいつ、小学生のときにダンジョンに置き去りにされたって言ったじゃないですか」


「えぇ、聞いたわ」


「そのせいか、ダンジョン内の行方不明とか聞くと、放っておけないみたいで」


「……ふうん」


「……まあ、それなら普段からマジメに活動しておいてほしいんですけど。その気になれば、もうプロ免許だって取れると思いますし」


「マイペースは悪いことじゃないと思うわ」


「そうなんですけど、ちょっと行き過ぎてるっていうか……」


 そんな話をしているときだった。


「牧野どん、見えたでごわす!」


 目を向けると、眼前には黒い孤島がそびえていた。

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