17-6.終わったらさっさと帰りますよ


「遅かったか……」


 島に上陸すると、すでに闇属性の気配が満ち始めていた。

 見ると、例の若い連中が乗って来たらしいイカダが放置してある。


 ……くそ。こんなことなら、新しい双剣を持ってくるべきだった。


「でも、どうしてこっちに来たのかしら?」


「うーん。まあ、度胸試しみたいなもんですね」


「そんなことで……」


「ギルドって、おれたちみたいな趣味のハントとは違いますからね。やっぱりこういうのが上下関係に響いてくるんですよ」


「なんか馬鹿らしいわ」


「とりあえず、追跡スキルであとを……」


 そのときだった。

 丘のほうから、黒い影が近づいてくるのに気づく。


「ま、牧野!」


「そうですね」


 ――骸の剣士。


 戦士の亡霊が、死してなおその身体を動かす。

 生者を無差別に襲う危険なモンスターだ。


 そいつはおれたちに狙いを定めると、一直線に襲い掛かってきた。


「下がって!」


 おれはその攻撃を盾でいなす。

 そして片手剣を膝に突き刺した。


 骸の剣士は膝から下が切断され、そのまま倒れた。

 もがこうとするが、いかんせん動きが鈍い。


「いいですか。アンデッドを殺すことはできません。でも脚を破壊すれば、翌日までは戦闘不能にできます」


 おれはイカダに触れ、あの連中の魔力を探知する。


「こっちです!」


 おれたちは走り出した。

 西郷さんが感心したように言う。


「いやはや。さすがの手並みでごわすなあ」


「いや、ぜんぜんですよ。……っていうか」


 おれは彼におぶられた眠子を睨んだ。


「おまえは自分で走れよ!」


「えー。だってー、疲れたしー」


「ハッハッハ。いいでごわす。うちの娘もこのくらい甘えてくれればいいのですがなあ」


 と、眠子が鼻をぴくぴくとひくつかせる。


「あ、牧やん。前のほうにモンスター。あと人間が三人」


「え!?」


 目を凝らすと、ぼんやりと薄闇に影が見えた。

 骸の剣士の腕が高々と上げられて、いまにもその刃が彼らを襲おうとしていた。


「眠子、ゴーレムを……!」


「えー。ちょっと間に合わないかもー」


「くそ!」


 慌ててブーストをかけようとするが、一瞬の差で――。


「どりゃああああああああああああああ」


 主任が吠えた。

 大剣を地面に突き刺すと、そのまま骸の剣士へと振り抜く。


 ――ズンッ!


 途端、地面に鋭い亀裂が走った。


 亀裂は一瞬で剣士のもとまで伸び、その脚の自由を奪う。

 ぐらついた剣士の攻撃は逸れて、男のすぐ脇に突き立った。


「牧野!」


「は、はい!」


 おれは駆け抜けると、すれ違いざまに骸の剣士の脚を破壊する。


「大丈夫か!」


「……は、はい」


 三人とも、大きな怪我はないようだった。

 ホッと息をつくと、主任たちが追いついてきた。


「大丈夫なの?」


「えぇ、間に合ったみたいですけど……」


 おれは地面の亀裂を見る。


「いやー、まさかだよねー」


 眠子もしげしげとそれを見ていた。


「え。なに?」


「…………」


「あら。牧野? どうしたの?」


「……べつに。それよりさっさと戻りますよ」


 おれはそう言うと、男のひとりに肩を貸して歩き始めた。

 眠子だけが、にまにまとおれを見ていた。

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