17-完.さっさと帰りますよ(大事なことなので二回言いました)
「いやあ、悪いわねえ。でも、しょうがないわ。こればっかりはセンスだもの」
主任がご機嫌な様子で言った。
「…………」
「わたしも驚いたわよ。無我夢中だったとはいえ、まさか魔法スキルが使えるなんてね。海の練習だとこれっぽっちも反応しなかったのよ。本当よ?」
「…………」
「ほら、あんただってまだ可能性がないわけじゃないでしょ? 魔法スキルって、属性によって得手不得手があるって眠子ちゃんも言ってたし……」
「うるさいですよ!」
ええい、ひとが黙ってれば調子に乗って!
「ていうか、なんですか! ひとが魔法スキル使えないの知ってて、いつまでもいつまでも! 自慢してんすか!?」
「そうよ、自慢してんのよ!」
「うわ、最低!」
おれはうんざりしながら言った。
「……まあ、いいです。とりあえず行きましょう」
もともと主任に魔法スキルの適性があるかどうか確かめるための旅行だったわけだし。
ハワイからの救出劇から一夜明け。
おれたちはザビエル討伐の二日めにむけて、『叫びの埠頭』を訪れた。
「あ、牧野どん!」
「西郷さん。昨日はお疲れさまでした」
「いやいや。結局、おいどんは眠子どんを運んだだけでごわしたなあ」
はっはっは、と陽気に笑う。
うん、まあ、あれでよかったよ。
このひとが本気で戦ってたら、えらいことになってたからな。
あれ。ていうか、その眠子は……?
――ピロリン。
まるで見計らったかのように、そこで携帯にメッセージが入った。
『牧やん。わたし疲れたから今日パスね。おつかれー』
「…………」
ま、まあ、あいつは魔法スキルの監督をしてもらうのが目的だったからな。
それでも今日が長崎での最後のクエストだし、せっかくだから楽しんでいこう。
ていうか、主任への憤りを発散しないとやってられない。
「よーし! それじゃあ、今日も張り切っていくでごわす!」
おー、とおれたちが腕を上げようとしたとき。
――ピピピ。
ふと主任の携帯に電話が入った。
「はい、お疲れさまです。はい、え……」
あれ。仕事関係かな?
「……はい。わかりました」
ピッと通話を切ると、彼女はおれに向いた。
「牧野。やるわよ」
「え、えぇ。だからこうやって音頭を……」
「違うわよ。本業のほう」
「え……」
主任がいそいそと飛行機の状況を確認する。
「クライアントからクレームが入ったそうよ。急いで戻るわ!」
「ちょ、待った。だっていま、休暇中ですよ! せっかく長崎まで来たのに……」
「なに言ってんの! こっちはあくまで趣味でしょうが!」
ぐはあ。
まさか、これを主任に言われる日がくるとは!
「牧野どん」
「さ、西郷さん」
そうだ。
このひとなら、おれの気持ちをわかって……。
がしっと肩を掴まれる。
「黒木どんの言う通りでごわす」
「西郷さあん!」
くそう、そういえばこっちも立派な社会人だった!
おれは渋々うなずくと、荷物を取りに急いでホテルへUターンした。
…………
……
…
さすがGW。
結局、飛行機の席は取れなかった。
新幹線の時間を確認しながら駅へ向かう。
「でも、このまま出るのも味気ないわね。けっこう時間あるし、お昼でも食べていきましょうか」
「あ、いいですね!」
そうして、おれたちは同時に言う。
「レモンステーキがいいと思います」
「佐世保バーガーにしましょう」
おれたちは顔を見合わせた。
「……え、主任。ハンバーガー食べるの苦手って言ってましたよね」
「た、たまにはそういう気分の日もあるわ。あんただって、酸っぱいお肉はいやだって言ってたじゃない」
「いや、なんか昨日、塩気のある場所にいたからか急に食べたくなって……」
「…………」
おれたちは顔を見合わせて、うなずき合った。
「いいわ。それなら公平に決めましょう」
そう言って、彼女は十円玉を取り出す。
そうして、運命のトスは――。
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