主任、いちゃらぶ回はどこですか?
26-1.ハリノムシロ
「あのね。祐介くん」
「はい……」
「あなたも立派な社会人なんだし、私生活にもあれこれと口を出すのはどうかと思うの」
「そ、そうですね……」
「でもね。わたしとあなたは、他のひとよりも親しい間柄にあるわけでしょう。もちろん同僚としてではなく、プライベートとしてね」
「はい……」
「特に男女関係においては、あなたは少しだけ誠実であるべきだと思うわ。違うかしら」
「そ、その通りです」
「なら、この状況について、説明はあると期待していいのよね」
「…………」
源さんの家をお暇して、一時間後のことだった。
なんやかんやあって、自分のアパートのリビング。
おれは姫乃さんの前に正座させられて、ひたすらお説教を受けていた。
受けているんだけど……。
「アハハ。ていうかあー。マジ受けるんですけどおー。なんでこのオトコ、こんな必死に謝ってるんですかあー」
なぜかハナが、おれのベッドの上に寝転がってスナック菓子を食べている。
おれがじろっと見ると、やつはにやにやしながら手にした漫画雑誌を持ち上げる。
「なに恐い顔してんのー? あたしはほら、この漫画ってやつの話してるだけー」
「…………」
狭い社宅のワンルームに三人もいれば、それはもう圧迫感がすごい。
なんか殺意に近いものが応酬していてそれはもう息が詰まる思いだった。
ていうか、なんだこれ。
……なんだこれ!
案の定、姫乃さんがそちらに目をやる。
その額に青筋があるのは、きっと見間違いじゃないな。
「ていうか、その子はなんなの?」
「いや、ですから、源さんの……」
「家に居候している女の子というのは聞いたわ」
「じゃ、じゃあ、なにが……」
「わたしは、その子がどうして当然のようにここに居座っているのかと聞いているの」
「そ、それは、その……」
するとやめてくれればいいものを、ハナが会話に割り込んでくる。
「別にいいじゃーん。あたし、ずっとここに住んでんだしぃー」
「はあ!?」
じろり!
「祐介くん! それは本当なの!?」
「えっと、その……」
確かにそうなんだけど、そう答えるとアレですよね。
絶対に怒りますよね!?
「……そ、そんなまさか。あはは。やだなあ、姫乃さん。そんなことあるわけじゃないじゃないですか」
おれはハナの肩を叩いた。
「な、ハナ!」
「え。先週からいたし」
ちっくしょう!
頼むから空気読んでくれよ!
「ゆう~すけくぅ~ん?」
ひいっ!?
主任の目が笑ってねえ!
「ていうかさあー。おまえのオンナって、あのパツキンじゃねえの?」
「いや、アレックスとはそういうんじゃないから」
「うえぇえ!? 顔も乳もあっちのが上っしょ。おまえ、見る目なさすぎぃー」
「う、うるさい。姫乃さんだっていいとこあるんだぞ。料理だってできるし、洗濯もできるし、それにほら、休日は掃除もしてくれるし」
「ちょっと、祐介くん! それ家政婦さんって言いたいわけ!?」
あれ、おかしいな。
家庭的な女性だって言ったはずなのに。
「なあ、頼むよ。姫乃さんが帰るまででいいから、とにかく話を合わせてくれ」
「やだし。なんであたしがそんなメンドいことしなきゃいけないわけえー?」
じゃあ、頼むから源さん家に帰ってくれよ!
と、そのときだった。
ぐぅー。
可愛らしい腹の音が、二つ。
おれが見ると、姫乃さんとハナが微妙な顔で目を逸らした。
「……あ、あー。そういえば、もうこんな時間ですね。メシでも行きましょうか」
二人が、じろりと睨み合う。
「この子といっしょなんて嫌よ」
「あたしだって、こんなオバサンとメシ食ったら小じわが移るっていうかあー」
ガタッ!
「なんですってえ――――!」
「んだよオバサンよお――――!」
ちょ、そんな大声出すと……!
――ピンポーン。
おれは慌てて玄関に出た。
すると同年代の青年が立っていた。
本社のほうからヘルプに来ている同僚で、隣の部屋に住んでいるのだ。
「あのー。牧野さん。なんか騒がしいんですけど……」
「す、すみません! 気をつけますんで!」
彼はちらと室内を見ると、にやっと笑って肘で小突いてきた。
「やるじゃん」
「あ、アハハ……」
くそ、楽しそうに言ってくれるよな!
「今度、合コンよろしくー」
そう言って、彼は自分の部屋に戻っていった。
――バタン。
「……とりあえず、近所迷惑なので外に行きましょうか」
あぁ、ほんと。
月曜からどんな顔して仕事行けばいいの?
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