26-2.いつだってビールは
「いらっしゃいませえー」
近くの居酒屋さんのボックス席に収まり、おれたちは夕食となった。
「あ、姫乃さん。なに飲みます?」
「そうね。せっかくだから地ビールでも……」
「じゃあ、おれもそうしようかな。あ、適当に頼んで大丈夫ですか?」
「そういえば、ここ新子焼きってあるのかしら」
「なんですか、それ」
「鳥の半身をタレにつけて焼いたものだって、観光雑誌にのってたの」
「へえ。でもメニュー表にはないですね。あとで店員さんに聞いてみましょうか」
おれたちが話していると、ふとそれに割って入る声が。
「……ていうかあー」
ハナが不満そうな声を上げた。
「どうしてあたしだけこっちなわけ!?」
おれと姫乃さんは、隣同士で顔を見合わせた。
前を見ると、向かいのシートに彼女が座っている。
「なんか変?」
「変だっつーの! さっきからなんでイチャイチャイチャイチャしてんの見せつけられなきゃいけねえんだよ!?」
「いや、だって二人ずつ座るシートだからな」
こういう配置になるのは自然なことだろ。
「だったら、あたしがそっち行けばいいじゃん!」
「いや、それは……」
……ていうか、こいつ、なんか様子が変だよな。
ダンジョンに潜ってから、妙に突っかかってくるというか。
おれのことそんなに嫌いなの?
「あら。むしろ連れてきてあげただけ上等じゃない。あなた、本当なら源氏さんのところに連れ帰ってもよかったのよ?」
「うぐ……っ!」
姫乃さんのど正論に、ハナが黙り込む。
しっかし、このふたりもまた仲が悪いよなあ。
姫乃さんって、だいたいは好意的に接するひとなんだけどなあ。
「まあまあ。とにかく、食事にしましょう。ハナも、なんでもいいだろ?」
「……仕方ねえから、それでいいし」
ぷいっとそっぽを向く。
やれやれ。
おれは店員さんを呼んで、適当に注文する。
ちなみに新子焼きは旭川の郷土料理らしい。
「でも、源さんも誘えばよかったですね」
「うーん。アレはちょっと、無理なんじゃないかしら……」
おれたちの言葉に、ハナがうなずく。
「……マスター。すげえ人見知りっていうかあー」
おれは先ほどのことを思い出していた。
姫乃さんを家に上げたはいいが、そのあと工房にこもって出てこなくなってしまったのだ。
「……あの方が、伝説の武器職人?」
「えぇ、まあ……」
おれも初対面のころはあんなだったかな。
皐月さんの仲介がなければ、知り合いにはなれなかっただろう。
「失礼しまーす」
ちょうどそこへ、ビールやら新鮮な海の幸やらが到着した。
さすがは海の真ん前。
刺身が引き締まって、艶々と輝いている。
「じゃあ、乾ぱー……」
「待てし!」
ハナに遮られる。
「なに?」
「なんで、あたしはこれなんだよ!」
そのジョッキに注がれたものを見る。
みんな大好きメロンソーダだ。
「え。だっておまえ、未成年だろ」
「そ、そりゃそうだけど! そんなのおまえらのルールだろ!?」
「いや、こっちで生活する以上は仕方ないって。こんなんで問題になって困るのはおまえじゃん」
「ぐぬう……」
悔しそうに歯噛みする。
背伸びしたいのはわかるけど、ダメなものはダメ。
「とりあえず、乾杯」
カチンとグラスを合わせて、ごくりとのどを潤す。
「あ、ハナ。おまえのぶんは自分で払えよ」
「んなあ――――!?」
こいつ、いい反応するよなあ。
あー、ビールうまい。
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