34-4.だな


 最後のエピックモンスター。


 ツチカゲ。


 非常に臆病で、戦闘を好まない。

 一見、影のような黒くて薄っぺらい形をしている。

 その外見を利用し、ただ外敵が去るのを待つだけのモンスター。


 見分けがつきにくく、初級ハンターでは発見することもできない。


 やつは洞窟や大穴の中を好み、影の中で隠れている。

 おそらく、そっちを獲得しにいった【家族マート】は探知スキルを持たないのだろう。


 ――と、思っていたのだが。


「な、な……」


 姫乃さんが呆然としていた。


「……なるほどね」


 おれもその状況を見て、寧々の言葉の意味を悟った。


 おそらくツチカゲが隠れているのであろう洞窟。

 その前に、美雪ちゃんが立っていた。

 キルスティールを狙っていると思っていたのに、堂々と姿を現している。


 そして【家族マート】のメンバーが、その洞窟の前で苦戦していた。


「この、くそ!」


「もう、無理だって。他を狩ろうよ」


「でも、ツチカゲを狩らないと勝てないって……」


 ひとりが剣を構えて、必死にそれを叩きつけている。

 しかし、それはツチカゲへではない。


 その斬撃は、美雪ちゃんの盾によって防がれていたのだ。


 彼女の防御拡張スキル『ワイドバウンド』。

 それですっぽりと洞窟の入口を塞ぎ、誰も通れないようにしているのだった。


「あ、マキ兄。さっきは残念だったね」


「……まあね」


 彼女はいつもと変わらない様子で話しかけてきた。

 おれたちはそのバリアの前に立ち、わずかな隙間もないのを確認する。


「……なるほどね。確かに美雪ちゃんなら、こうしたほうが楽にポイントを確保できる」


「でしょー? あ、もちろんマキ兄たちも通さないからね」


「…………」


 まさか、こんな手まで使ってくるなんてな。

 それだけ本気ということか。


 姫乃さんが、そのバリアをぺたぺた触りながら言う。


「ねえ、祐介くん。こう、強引に突破できないの?」


「無理です」


「そんなことはないでしょう。あんたの強化スキルなら……」


 美雪ちゃんがにっと笑う。


「もしかしたら、破れるかもね」


「じゃあ……」


「だから、ダメなんです」


「……どういうこと?」


「もし美雪ちゃんのバリアを無理に破ったら、『ハンター同士の戦闘行為の禁止』に抵触し、おれたちはペナルティを受けことになります」


「なあ……っ!?」


 しかも危険行為のペナルティは、スキルフライングよりもずっと重い。

 そこからの挽回は不可能だ。


 もちろんこれもマナー違反だが、裏技としては成立する。


 ……これは、万事休すだな。



 …………

 ……

 …



「くそ、どうすればいいんだ!」


「はやく逃げましょう、もう無理です!」


 チーム【アトランタス】。

 彼らは大量のモンスターに囲まれていた。


「さっきまで、一匹もいなかったのに!」


「でも、どうして属性の違う場所にいるんだ!」


「ちょっと、危な……、きゃあ!」


 メンバーの女性が尻もちをつき、モンスターの攻撃を受けそうになった。


 ――攻撃スキル『ヒート・デストラップ』発動


 突然、そのモンスターの四肢が切断された。

 それはピアノ線のようなもので行われ、その断面は高熱スキルによって焼き切られている。


 それをきっかけに、大量のモンスターのたちは脚を次々に切断された。

 動けなくなったモンスターたちの中心に、寧々が立っていた。


 彼女は【アトランタス】のメンバーに近づくと、その女性を助け起こした。


「大丈夫か」


「は、はい! ありがとうございます!」


「ったく、男ども、ちゃんと女を守ってやれよ」


 寧々は言いながら、周囲を見回した。


「……しかし、どうなってんだ、こりゃ」


 モンスターたちが、エリアをまたいで活動している。

 それも、なにかを目指しているようだった。


「……なんか異変が起こってんのか? でも、中止のアナウンスはねえしなあ」


 と、助けた女性がきらきらした目を向けてくる。


「あ、あの!」


「……なんだ?」


「お姉さまって呼ばせていただいていいですか!」


「ふざけんな! そんなことより、さっさと逃げ……」


 ――ズズーン……ッ


 ふと、向こうから振動が起こった。

 その方向を見て、寧々は呆然とする。


「……おい、嘘だろ」

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