【美人上司とダンジョン2】カウントダウン番外編だそうです

【発売まであと7日】取材に行こう


 ある日のノー残業デー。


 おれと主任がいつものように『KAWASHIMA』を訪れると、そこには先客がいた。


「あーうー……」


「もう、いい加減にして。そろそろお客さんが多くなる時間なんだからさ」


「そんなこと言わずに、美雪も考えてよー」


「やだよ。わたし、まだ許したわけじゃないんだからね」


 美雪ちゃんが、エントランスのテーブルに突っ伏した眼鏡の女の子としゃべっている。


 あの女の子は……。


「牧野、あの子って……」


「そうですね」


 おれたちはそちらに歩いて行った。


「どうしたの?」


「あ、マキ兄」


 するとテーブルで唸っていた眼鏡ちゃんが顔を上げた。


「ラブコメ師匠!」


 ……なんかランクアップしてない?


「久しぶりだね。どうしたの?」


「それが……」


 すると、美雪ちゃんがシュバッと間に割って入った。


「な、なんでもない! なんでもないから、こいつに話しかけちゃダメ!」


 こいつて。


「ほ、ほらほら! マキ兄たち、今日はいいクエスト残ってるよ!」


「ちょ、押さないで……」


 なんだ?

 どうしてこんなに慌ててるんだろう?


 すると眼鏡ちゃんが、ぴょーんと立ち上がった。


「あーっ! それなら、わたしも行って……」


「ダメ! もうマキ兄たちへの取材は禁止!」


 取材?


「取材って、つまり本の?」


 そういえば、作家だって言ってたっけ。


「そうなんです! 前巻がご好評いただきましたので、めでたく続巻が決定しました! みなさま、どうもありがとうございました!」


 なんか虚空を見つめながら言ってるけど、誰に向かって言ってるのかな。


「それじゃあ、その続巻の取材ってこと?」


「いやあ、さすがラブコメ師匠! 話がわかりますねえ! ぜひ同行させてくださいよー。えへへー」


 もみ手をしながらすり寄ってくる。


 うーん。そういうことなら、協力してあげてもいいけど……。


「だ、ダメだって! マキ兄たちも、興味持っちゃダメ!」


 美雪ちゃんがお冠だ。


「でも、せっかくダンジョンのことが広まるチャンスだろ。美雪ちゃんも、どうしてそんなに嫌なの? モデルになったなら、ここもお客さんが増えていいんじゃん」


 すると、なぜか彼女が驚愕した。


「ま、マキ兄! もしかして、あれ読んでないの!?」


「え? う、うん。いや、買ったんだけど、なかなかヒマがなくてさ」


 そもそも、おれって本を読む習慣ないし。


「そういえば、主任はあれ、読んだんですか?」


「ええっ!?」


 話を振られて、なぜか彼女が裏返った声を上げた。

 それから顔を赤くしながら、明後日のほうを見ながらしどろもどろになって答えた。


「わ、わたしも、ちょっと賛成できないかなあ、なんて……」


 え?


 珍しいな。

 こういうイベント、普通は好きなのに。


 ていうか確か、この二人がモデルのヒロインがいたんだっけ。

 それがこんなに嫌がるってことは……。


「……そんなにまずい内容なの?」


 眼鏡ちゃんが首をかしげる。


「いえ? いたって健全ですよ? 本番はないですし」


 なんか最後の言葉が引っかかるけど、まあ、いいか。


「だってさ。ちょっとくらい、いいんじゃない?」


「マキ兄は読んでないからそう言えるんだよ!」


「そうよ、牧野! あんた、他人事じゃないのよ!」


 うーん、怒られてしまった。


 すると、眼鏡ちゃんが腕を組んできた。


「じゃあ、今回はわたしとラブコメ師匠だけで潜ります。それでいいですか?」


「え? まあ、きみがそれでいいなら……」


 するとなぜか、彼女はにんまりと笑った。


「さーて。ここはいっちょヒロインになりきって、あんなことやこんなことの実験を……」


「「ダメええええええええええええええええ」」


 なぜか主任と美雪ちゃんのダブルコンボで制止される。


「あ、あなた、いったいなにする気なの!?」


「だ、ダメだからね! いくらなんでも許さないから!」


「えー。じゃあ、大人しくモデルになってよー。ちょっと触られるだけじゃーん」


「「それはぜったいに嫌!!」」


 女性陣がぎゃあぎゃあと言い合っているときだった。


 ――ピロリン


 ふと、携帯にメッセージが入った。


 あ、寧々からだ。

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