29-2.ここが地獄の終着点


 その一層ほど下のフロアで、おれたちは止まった。


「美雪ちゃん、怪我は……?」


「だ、大丈夫っぽい……」


 おれのスキルで美雪ちゃんの盾を強化し、それで三人分の体重を受け止める荒業。


 ……即興にしてはうまくいったな。


 いや、それよりも……。


「陽子さん!!」


 彼女の視線が明後日のほうを向いている。


「あ、アハハー。祐介くんも美雪も強くなったのねえ。お母さんびっくりー」


「誤魔化さないでください。あれほどスキルを使う場面は慎重にって川島さんに言われてたでしょ」


「忘れちゃってたの。本当よ?」


「…………」


 おれは深いため息をついた。


 美雪ちゃんが、上の穴を見ながら言った。


「……ていうか、いまのなに?」


「え。美雪ちゃん、知らないの?」


「う、うん。お母さん、ハンターだったころのこと、なにも教えてくれないし……」


「いまの陽子さんのウルトなんだよ。タロットカードに込められたスキルを、ランダムに発動させるっていうやつ」


 美雪ちゃんの顔が引きつった。


「なにそれ、すごい迷惑なんだけど!」


「うーん。まあスキルひとつひとつの効果が大きいから、こういう形でしか制御できないらしいんだよね。いまのだって、モンスターを落とせれば勝利確定っていうか……」


 中には回復効果もあるし、強化スキルもある。

 それぞれタロットに即した効果を、正位置と逆位置、つまり敵か味方かにランダムに振り分けるのだ。


 まあ、彼女らしいっちゃらしいんだけど。

 よくもまあ、こんなスキルで当時のパーティメンバーが無事だったよ。


「とにかく、あの場所まで戻ろう。通路はあるといいけど」


 暗くてよくわからないな。

 おれは手当たり次第に、壁やらを探ってみる。


「……あれ?」


 おれはふと、それに手を触れた。

 美雪ちゃんも同じように、それに触れる。


「……マキ兄」


「……うん」


 その表面をなぞってみる。

 それはとてもよく覚えのあるものだ。


 ……これ、宝箱?


 おれたちは顔を見合わせると、それの蓋に手をかけて力を込める。


 ――が。


「なにこれ、開かないんだけどーっ!」


「た、たぶん結界が施してあるんだ。特定の条件を満たさなきゃ……」


 と、蓋の部分にくぼみがあるのに気づいた。


「……ここに、なにかはめ込むのかな」


「でも、こんなハート形っぽいものなんて……」


 あっ。


 おれたちは、ふと上空を見上げた。

 ガーゴイルの額に輝いていた石……。


「これは、いよいよあいつを止めなきゃいけないね」


「でも、どうやって……」


 周囲を見回した。

 よく見れば、他に通路はない。

 完全な隠し部屋だった。


「……どうやって出るの?」

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