37-7.年季の差だと言っておくれよ


「――すべての食材に、感謝を込めて」


 チーム【迷宮美食探求会】、リーダーのToshiが、その出刃包丁を振り上げた。


 ――斬撃『飛翔・三枚おろし』!


 三枚の真空の刃が、モンスターを襲う。

 しかしその寸前、それは見えない壁に防がれた。


「ぬう!?」


「くそ、まただ!」


 牡丹がスキルを展開しながら、地団太を踏んだ。


「あー、もう! 面倒くさいなあ!」


 彼女の受けた命令は、おれたちの妨害。

 しかしだからといって、【美食会】のポイント獲得を見過ごすわけにはいかない。


「……これが目的だったわけ?」


「はい。さすがに二チーム分をカバーするとなると、牡丹にも隙ができますからね」


「あくどいわねえ」


 失敬な。

 これはランク戦でもよく使用される手段だ。


 おれたちのポイント獲得のチャンスを広げる。

 なおかつ【美食会】のポイント獲得を妨害する。

 一石二鳥ってやつだぞ。


「でもお兄ちゃま。このままでは結果は変わらんぞ」


「そうなあ」


 さすが世界ランカーの牡丹。

 こっちの【美食会】もなかなかの手練れだが、ほぼ完ぺきにカバーしている。

 あの利根がスカウトするだけあって、実力は本物なのだろう。


 そのとき、アナウンスが響いた。


『チーム【ザ・利根!】。エピックモンスターの獲得で、100ポイント加算です!』


「やば!」


 おれは慌てて姫乃さんたちを焚きつける。


「ほら、二人とも、攻撃の手を緩めないで!」


「わ、わしもか!? 戦えんの知っとるじゃろ!」


「そうだよ!」


 トワに剣を持たせながら耳打ちする。


「……振りだけでいい。本気でやるなよ」


「え?」


「行け」


 そうして、【美食会】の狙うモンスターへ攻撃を仕掛ける。


「どりゃあああああああああああああああああ」


 ガキーンッ!


「ていやあああああああああああ」


 ギギンッ!


「のう。それ、叫ばんとダメ?」


 コツーンッ


「まあ、振りでいいから」


 ガキーンッ!


 その間の攻撃も、ことごとく防がれる。

 もちろん、【美食会】の攻撃も同様だ。


「……ハア、ハア」


 牡丹が、額に流れる汗を拭った。


「……そろそろだな」


「え?」


 おれは剣を構えて、モンスターへと突撃する。


 ――斬撃スキル『ラッシュ』発動


 無数の刺突を浴びせる。


「あー、もう! わかんないひとだなあ!」


 牡丹が苛立ったように、防御スキルを展開した。


 ――が。


『ギャオオオオオオオオオオオオオオ』


 モンスターはおれの攻撃をもろに浴びて、そのまま絶命した。


 ――15ポイント加算


「え?」


「お?」


 牡丹が、呆然と自分の手のひらを見つめていた。

 おそらくは、初めての感覚なのだろう。


「あ、あれ……?」


 彼女の周囲の『十重の武装』が維持できず、消滅した。


「な、なにをしたんですか!」


 おれは剣を鞘にしまった。


「魔素切れだよ」


 この『ハント』のダンジョンは、魔素の自動回復を阻害される特殊ステージだ。

 そして、おれのスキルの十倍近い魔素を消費する高位スキルの乱発。


 結果は当然、こうなる。


「おれの勝ちだな」

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