36-5.何事も崩れるほうが早いよね
いやあ、えらい目に遭った。
美雪ちゃんの部屋に退散すると、大きな欠伸をする。
いい時間だし、そろそろお開きだよなあ。
「ただいまー」
――びくっ!
あれ?
なんかいま、牡丹・紫苑の双子が、びくってなった気がするけど。
「……どうしたの?」
「あ、いやー、そのう……」
「な、なな、なんでもないです!」
うん?
なんでもなさそうじゃないけど。
「あ、飲み物とか取ってこようか?」
「い、いらないです!」
「なに入れられるかわかったもんじゃ……」
紫苑がハッとして口をふさぐ。
……え、いまなんて?
ぎくっとした二人が、ささっとバッグを肩にかけた。
「じゃ、じゃあ、わたしたちもう寝る時間なんで!」
「夜更かしは美容に悪いんで!」
「あ、うん。そうだね。駅まで送ってこうか?」
「いいえ、必要ないですこの変態野郎!」
「その手には乗らないですよ変態野郎!」
うん。
……うん!?
え、いま変態って……。
聞き間違いじゃないよな?
「あの、いまのどういう……」
「「おつかれさまでしたあ――――っ!」」
ヒュンッと消えていく。
……なんだったの?
「いや、でもいま確かに変態野郎って……」
あんなに懐いてくれてたのに、いったいなにが……。
『……それはねえ』
「うわびっくりしたあ!?」
いきなり背後から声をかけられる。
振り返ると、美雪がマイクを持って立っていた。
『マキ兄が出てって、大変だったんだよねえ。あのふたりからの質問攻め……』
「え、う、うん」
『なんかさあ、キラキラキラキラしてむかつくよねえ。牧野さんがすごいんですよ牧野さん憧れなんですよって。おまえらマキ兄のなに知ってんだよって……』
「は、はあ」
なんかうまくわかんないけど、お怒りらしい。
『あんまりイラっとしたからさあ。わたしが、二人に言い聞かせてやったんだよ……』
「え、なにを?」
『これまでのマキ兄の所業の数々を……』
はい?
『まずはそうだねえ。マキ兄。アレックスさんが裸で寝るタイプだからって、大学のときいつもそのシチュエーション満喫してたよねえ』
「わあ――――っ! 待った、待った!」
おれは慌てて止めた。
「え、なに、それ言っちゃったの?」
『うん』
「う、うそでしょ。ちょっと待って。え、ていうか姫乃さんには言ってないよね?」
すると彼女は、フッと目を逸らすだけだった。
「おいこっち見ろ。他にはなに言ったの!?」
『そうだねえ。最近のじゃアレかな。マキ兄、あの【どさんこ】の赤髪ガールの乳を揉んだとかね。さすがに中学生の乳揉むおっさんって、ドン引きだったよねえ』
「なんで知ってんの!?」
ていうか、あれは事故っていうかなんていうか、ちょ!
『うふふふふ。わたしを舐めちゃあいけないよ』
やだ、この子こわい!
「ていうか、なんでそんなことすんの!?」
『……なんで?』
すると、ガシッと肩を掴んでくる。
『マキ兄がいっしょにカラオケ歌わないからじゃんかあ――――っ! せっかくマキ兄が唯一まともに歌えるケミストリー覚えてきたのにさあ――――っ!』
そんな理由!?
ていうか、こっちも酒くさっ!
うちの成年女子、こんなんばっかか!
『せっかくデュエットしたムービー撮って寧々さんに見せびらかしてやろうと思ったのに、これじゃプランがパーだよ、パー!』
「わ、わかったから! おれ、そろそろ帰るから! じゃあ、ほどほどにね!」
『あ、こらマキ兄! 一曲、歌ってけよ――――っ!』
おれはバッグを抱えると、その部屋を飛び出した。
今日のカラオケ、こんなんばっかだな!
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