36-4.気がついたら夜でした


 恐る恐る、寧々たちの個室のドアを開ける。

 さっきとは一転、しーんと静まり返った部屋が迎えた。


 ぎぎぎ、と姫乃さんが顔を向けてくる。


 やばい。

 顔面蒼白っていうか、なんかこれ呪いの日本人形みたいな顔になってる。


「……あ、祐介くん。いや、牧野さん」


 なんでさん付け?


「わ、わたし、その、お手洗いに、行く、わね。じゃ、じゃあ、あと、よろしく」


「は、はあ……」


 ――シュバッ!


 一瞬だった。

 主任が眠子とトワを担いで部屋を出ていってしまう。


「……なんだ?」


 と、部屋の隅から、どよどよと禍々しいオーラが漂っているのに気づく。


「まきのう……」


「お、おまえは、寧々!」


 いや、寧々しかいないんだけど。

 なんか雰囲気的にね。


 すると、ガッと胸ぐらをつかまれて揺すられる。


「てめえ、いつまでほっつき歩いてんだこらあ!」


「だって、おれ、もともと、向こうの、部屋、じゃん……!」


 がっくんがっくん。


 完全にアルコールで我を忘れている。

 誰だこいつに酒を飲ませたやつは!


「てめえな、わたしがどんな気持ちで待ってたと思ってんだよ!」


「な、なに?」


「わたしは、わたしはあ!」


 なんだ?

 なんかこいつ、泣きそうな顔してるんだけど……。


「寧々?」


「…………」


 寧々はじっとおれを見つめながら、そっと顔を伏せた。


 そして――。


「……うっ」


 え?


 彼女は口を押えて、もうほんと泣きそうな顔で首を振る。


「うわあ――――っ! 馬鹿、おまえせめてごみ箱、ビニール袋がそこに……!」



 ~~~~~

 ※自主規制

 ~~~~~



 ぎ、ぎりぎりセーフ……。


「……ハア、ハア」


「おい、大丈夫か?」


 背中をさすってやる。


 すると、ぐず、とぐずる声が聞こえる。


「べつに、したくてあんな戦術したわけじゃねえし……」


「…………」


「おまえ、ほんとずるいよな。仕事もして、ダンジョンもやって、恋愛も順調で。なんなの? わたし、ぜんぜんうまくいかないのに……」


「寧々……」


 おれはそっと、彼女の肩に手を置いて――。


「……いや、だってそれはおれの努力じゃね?」


「おまえ、ほんとそういうとこだろがああああああああああああああ」


 うがああああああああああ、と引っかかれる。


「いて、痛いって、ぎゃあああああああああああ」


 おれは慌ててその部屋を逃げ出したのだった。

 なんか悪いことした?

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