36-3.版権とか怖いじゃん


「そうさ、なんとかかんとかどうとかあああああああ!」


 シャン、シャン、シャン……。


「もうあれこれなんとかどうとかああああああああ!」


 シャン、シャン、シャン……。


「…………」


 なんだ、これは……。


 おれは愕然としていた。


 つかさがアニメのメドレーを垂れ流し、それをハイドのお葬式みたいなタンバリン演奏が助長させている。


 一見、盛り上がってる。

 でもこれは、なんかアレだな。


 幽霊船で骸骨たちが演奏会してるみたいな。


 店長が、はあっとため息をつく。


「……ね?」


「あぁ、意味わかりました」


 これは確かに、いたくないなあ。


「ハイドさーん。お客さんですよー」


「……む?」


 暗ぁい顔を向けてきたハイドが、ぎくっとなる。


「き、きさ……、いえ、あなたは!」


 なんで言い直したの?


「ど、どうしてここに……」


「あー、そちらさんもここ来てたらしくて、ご招待したんすよー」


「そ、そうか」


 なぜかよそよそしい。

 いや、昼間もツンケンしてたけど、これはもっと別の感じだ。


 ……もしかして、あのイレギュラーで負けたのを引きずってるのかな。

 まあ九州から来てあんな結果だったら、そうだよなあ。


「あの、昼間はすみませんでした」


「ひ、ひるま? 昼間がなんだ、……ですか?」


 なんだですか?


「いえ、あの後半のエピックがいなければ、あなたたちの勝ちだったのに……」


「あ、いや、それはいい、です。そもそも、こいつのせい、なんです」


「だきしぃぃめえええてええええええええええ!」


 このアニメ、聞き覚えがあると思ったら子どものころにやってたやつか。

 懐かしいなあ。もしかして、まだやってんの?


 いや、それよりも……。


「……ハイドさん。さっきからどうしたんすか?」


 さすがに店長も彼の態度を不審に思っていたらしい。


「な、なんでもない! そうだ、店長! ピザを頼もう! それとも、ポテトか!」


「いや、そういうの高いから、わざわざこっち来てまで同じチェーンの牛丼にしたんじゃないですか。しかもいつもの賄のほうがトッピングできるぶん豪華でしたよ」


「ぎ、ギルマスとして、客には、礼儀を尽くさんとな!」


「……いや、ほんと、どうしたんですか?」


 うーん。

 理由はわからないけど、一応、歓迎されてるっぽいのか?


 そう思っていたとき、ふとマイクで大音量の叫び声が響いた。


「あ――――っ!」


 つかさだった。

 どうやら、歌い終わったらしい。


 いきなりおれとハイドの間に割って入ると、がるるるる、と威嚇してくる。


「あなた、ハイドさんに近づかないでください!」


「ええ!?」


 どうしたの?


「あなたはアレです。女ったらしの匂いがします!」


「え、ちょ、どうして?」


「お姉ちゃんが言ってましたもんね! 都会のへらへら笑ってる優男は狼だから近づくなって! 具体的にはハンターで会社員でいつも女上司とダンジョンに潜ってる牧野っていう名前のひとの半径3メートル以内でダンジョンに潜ると妊娠させられるって!」


 具体的すぎない!?

 ていうか、誰だそんなこと言うやつは!


「や、やめろ、この馬鹿いぬっころ!」


「な、なんでですかあー! わたしはハイドさんのために言ってるんですよー!」


「余計なお世話だ! おまえの姉貴、いつ迎えに来るんだ」


「えーっと、さっきメールしたら、あと二時間くらいって言ってましたー」


「……ハア。じゃあ、それまで歌ってろ」


「もう、わかりましたよう!」


 そう言って、次はプリキュアのテーマソングを流しだした。


「……す、すまん、です」


「あぁ、いや、大丈夫です。こういう扱い、慣れてるんで」


 ……自分で言ってて情けない。


「そ、それよりも、アマチュアにしてはすごいスキルでしたよね。プロになろうと思わないんですか?」


「……そ、それは、その」


「あはは。牧野さん、このひと、飛行機恐怖症なんですよー」


「て、店長!!」


「いいじゃないですか。子どものころに飛行機内でおしっこ漏らしたのが原因で、それ以来、乗るのが怖くなっちゃって……」


「やめろおおおおおおおおおおおおおお」


「あははは」


 そんな話をしていると、ふと携帯が鳴った。


『牧野てめえ、どこいんだよ!?』


 その大声に、耳がキーンとなる。


「あー、すみません。なんかお呼びがかかっちゃって」


「あ、そうですか。じゃあ、また明日、決勝戦は観てますんでー」


「ありがとうございます」


 そう言って、おれは部屋をあとにしたのだった。


 ……あー、戻りたくないなあ。

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