38-12.激突
頭が、妙にすっきりとしていた。
さっきまでいろいろ考え過ぎて、ちょっとイライラしてたからな。
まあ、姫乃さんには悪いけど。
なんか、気分はいい。
おれは大きく、息を吐いた。
「――利根ぇ」
するとやつは、にやりと笑った。
「なんだ?」
「おれ、あのとき言ったよな」
「あのとき?」
「おまえが初めて、おれに歯向かったときだよ」
まだ利根が新入りだったころ。
ダンジョン内で意見が衝突。
危うく全滅の危機に陥ったことがあった。
そのとき初めて、おれはチームメイトと本気で戦った。
「さあなァ。もう一回、聞かせてくれないか」
「…………」
やつの思い通りというのは癪だが、たまにはそれもいい。
「おまえはこれから一生、おれに逆らうのは許さねえとな」
「それでも逆らったら、どうするんだっけか?」
おれは怒りのままに叫んだ。
「おまえを、ぶっ飛ばす!!」
「それは、うれしいなァ!!」
同時に剣を構える。
身体が自然と、そうするべきという構えを教えてくる。
それはいままで、まったく身に覚えのないものだった。
そして同時に、『十重の加護』に記憶にないスキルのコードが入力される。
――十重の強化『リミット・ブレイク』
身体中のすべての制限を一時的に解除する。
これにより、身体能力の限界値を引き出す自己犠牲スキル。
ハンター協会の設定する『禁忌スキル』のひとつ。
利根の回復スキルすら凌駕して身体を痛めつける。
その激痛と比例して、身体に魔力が満ちていった。
おれは剣を振り上げると同時に、利根が構えを取る。
その右のこぶしに、最高出力の魔力を込められるのがわかった。
「あのときみたいに、泣いても許さねえからな!」
「残念だが、今回はあなたのほうだ!」
――おれは利根に向かい、すべての魔力を込めた一撃を振り下ろした。
…………
……
…
「はやく、はやく!」
佐藤たち【どさんこ】は、牧野たちと二つほど離れたエリアを駆けていた。
「最後のエピックのところに牧野さんたちがいるんでしょ!」
「でも、もう無理っしょ!」
「…………ぜえ、ぜえ」
佐藤が二人を激励する。
「いっしょにハワイでイケメン捕まえるって言ったじゃん!」
「それ、リーダーだけだし! あたしらは男とか興味ねえって!」
「わ、わたしは、ちょっと興味ある、かも……」
二人がぎょっとする。
「え。マジで!?」
「まさかの源さん、彼氏ほしい系?」
「……昨日の夜、妹がすごいイケメンと仲よさそうにしてた」
あー、という雰囲気が流れる。
「あのカラオケ店でおぶられてたやつですか?」
「もしかして源さん、あんな黒ずくめが趣味なわけ?」
「でも、あれってどっちかっていうと保護者的な感じがしましたけどねえ」
「確かにそれっぽい感じだったし」
そんな話をしていたときだった。
「……あれ?」
佐藤の視界に、一人の男性が映る。
よく目立つ金髪に、イケてる二枚目アゴヒゲの男だ。
「あれ、ゲストのピーターさんじゃない?」
「あ、マジだ」
「……どうしてダンジョンに?」
彼はどこか怖い顔で、森の中へと姿を消した。
「……なんだったんだろう?」
「さあ?」
「……あ、それよりエピック!」
「まだ走るの!?」
「ほら、行くよ!」
そうして、【どさんこ】は駆けていった。
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