38-13.陰謀始動


 ――土煙が収まったとき。


 利根の絶叫が響いた。



「なぜ止めたあああああああああああああ!!」



 その視線の先――。



 おれの剣と利根の拳を、紫苑の大剣が止めていた。


 彼女は冷たい瞳で、利根を見やる。


「リーダー。いまのは確実に回復ヒールの許容オーバーだよ」


「ふざけるなあ! おまえになんの権限があって……」


「わたしはそもそも、リーダーと牡丹が暴走したときのストッパーだって言われてたじゃん」


「…………ッ!!」


 どういうことだ?

 おれは目の前の光景に呆然としていると、彼女は大剣を下ろした。


 同時に、利根が臨戦態勢を解く。


 それを見て、おれも剣を下ろした。


「…………」


 おれと利根の、決死の一撃を止めた?

 いや、いくら紫苑でも、そんなことは――。


「できるよ。だってわたし、最初からレベル制限、受けてないし」


 おれの考えを読んだように、彼女が言った。

 彼女はつまらなさそうに、腕章を外す。


 それは確かに、他に似せただけの偽物だった。


「ど、どういうことだ?」


 頭がすっかり冷えていた。


 同時に姫乃さんが目をぱちくりさせる。


「……あら。なにが?」


「あ、姫乃さん!」


 その肩を揺する。


「だ、大丈夫ですか!?」


「え、ええ。なんか、気を失っていたけど……」


「えっと、その……」


 説明したいけど、いまはもっと気になることが……。


 見ると、紫苑が利根の脚をげしっと蹴った。


「熱くなりすぎ。リーダーがエスケープで排出されたら、目的が達成できないじゃん」


「…………」


「さっきから、変な気配がある。あいつは確実にここにいるよ」


「……おまえに言われずとも、わかっている!」


 利根はこちらを一瞥すると、チッと舌打ちして視線を逸らした。


「おい、利根。おまえたちは、いったい……?」


 そのときだった。


「おやあ! 牧野どのチームではござらぬかあー!」


 森の中から、マントの集団が飛び出してきた。


「あれ、【黒魔術倶楽部】のみなさん?」


「およよ! 幼女の気配を追って来てみれば、こんなところで奇遇でござるなあ!」


「あ、そ、そうですか……」


 ブレねえなあ。


 と、その視線が紫苑を捉えた。


「美幼女ではござるぞおおおおおおおおおおおおお」


「うっひょおおおおお。ペロペロさせてほしいでござるううううううううう」


 そちらに飛びかかろうとした一同が、ぴたりと動きを止める。


 彼らは一瞬、顔を見合わせ――。


「やっぱり、こっちでござるううううううううう」


 なぜかトワに飛びついた。


「黒髪萌ええええええええええ」


「拙者たち、ギャル系は苦手でござるぞおおおおおおおおお」


「ひいいいいいいいっ!?」


 トワが慌ててこっちに逃げようとしたときだった。



 ――ゴウンッ!



 突然、両者の間に、炎の斬撃が飛んだ。

 それによって、【黒魔術倶楽部】がたたらを踏む。


「な、何者でござるか!?」


「我らを邪魔するとは、けしからんでござる!」


 ハナか?


 いや、でもこの炎の魔法剣は――。


 すると森の中から、一人の男が歩み出してきた。


「ピーター?」


 ……なぜここに?

 しかしおれの声には応えずに、やつはトワに手を伸ばした。


「――その少女を、こちらに渡してもらおう」


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