38-14.炎龍


「ぴ、ピーター? どういうことだ?」


 するとやつは、いつもの胡散臭い笑顔を浮かべた。


「やあ、マキノ。さっきは惜しかったね」


「……いや、そんな話をしてる場合じゃないだろ」


 やつの瞳に、うすら寒いものを感じる。

 思えば、始めからおかしかった。


 初めて開催された日本の地方大会。

 そんなものに、どうしてこれほどの世界ランカーが集結する?


 でも、疑わなかった。


 ピーターがへらへら笑ってゲストの仕事をしているもの普通だ。

 利根がおれへの執着のためにわざわざやってきたのも、やつの破天荒ぶりを知っていればわからないこともない。


 でも、もし――。


 それはすべて、何者かの目をくらませる演技だったら?


「リーダー、解除を!」


「はやくしろ!」


 紫苑が懐から解呪の魔具を取り出すと、それで利根の腕章を切った。

 利根のレベル制限が解除され、膨大な魔力が噴き出す。


「……あいにく、簡単に渡すわけにはいかないなァ」


「まったく、牡丹はこんなときにどこに行ってんだか」


 それを見て、ピーターが剣を構える。


 完全に置いてけぼりだ。

 でも、ただ一つだけわかることはある。



 ――この中心にいるのが、トワだということ。



 トワは緊張した顔で、利根とピーターを見比べている。


 おれたちを見るまなざしに、なにか不安な影がちらついた。


「ゆ、祐介くん。これ、いったい……?」


「姫乃さんは下がって。こいつらに巻き込まれると、危ないですよ」


 そして、完全な膠着状態。



 動いたのは――。



「なにか知らぬが、美幼女の危機ですぞおおおおおおおおおおお」


「美幼女は世界の宝! それを独占するやつは世界ランカーでも許すまじ!」


 マントの集団が、一斉にトワを守ろうと駆け出した。



「「イエス・ロリータ・ソフトタアアアアッチ!!」」



 ピーターの周囲に、巨大な火柱が立ち上った。

 それはまるで龍のように渦巻きながら、その剣に絡みつく。



 ――魔法剣『華龍・天下り』



 ピーターのすさまじい炎の剣撃が、【黒魔術倶楽部】を襲う。


 おれはとっさに、それを守ろうとスキルを展開するが――。



「牧野センパイ、そっちじゃない!!」



 ――え?



 その瞬間、ピーターの火炎スキルが、真っ二つに切り裂かれた。



 ――ズドオオオオオオオオオオオオオオンッ!



 ダンジョン内に、とてつもない地響きが轟いた。


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