38-完.第二部完的な


「くっそ! リーダーたち、どこだよ!?」


 牡丹は森の中を駆けていた。


 完全に道に迷っていた。

 探知スキル『オーバー・エコー』で場所を確かめようにも、すでに魔素は切れている。


 と、そのときだった。


「う、うう……」


 うめき声に、どきりとして立ち止まる。

 すると茂みの向こうに、人影を見つけた。


 なんかひょろい感じの中年男性だった。

 身体中を痛めつけられており、ぴくぴくと震えている。


「だ、だれ? 参加者?」


 でも、こんなやつ、いたっけ?


 牡丹が不審に思っていると、ふと目が合った。


 ――ぎらり。


「美幼女でござるぞおおおおおおおおおおおおお」


「うぎゃああああああああああああああああああ」


 飛びつかれて、すさまじく腕をぺろぺろさせる。

 慌てて引き剥がし、牡丹はシャーッ! っと警戒態勢をとる。


「いやあ、どうなることかと思いましたぞ! やはり美幼女は世界の宝!」


「え、うそ、傷が治ってる……っ!?」


「フッ。拙者のウルト『ロリータ・ナイト』は、美幼女成分を摂取することで回復や強化、あらゆるステータス恩恵を受けることができるのでありますぞ!」


「なんだそりゃああああ!?」


 ――ハッ。

 これ、こいつ、もしかして……!


「おまえ、【黒魔術倶楽部】のやつ!?」


「いかにも! 拙者はリーダー、若松!」


「ど、どうしてここに!?」


「ふうむ。どうしてでござろうなあ。盟友たちと美幼女の匂いをたどっていたとき、いきなりうしろから掴まれて……、それ以降の記憶がござらんなあ」


「…………」


 まさか……っ!


「リーダーたちがやばい!!」



 …………

 ……

 …



『通信が完全に途絶えています! いったい、どうしたのでしょうか!』


 アナウンサーが、困惑したように言った。


 牧野と利根が激突した瞬間から、ダンジョン内の映像が消えていた。


『これより、緊急措置に移行します。腕章のエスケープにより、参加者を帰還させ……』


『…………』


 寧々はじっと、真っ暗な画面を睨んでいた。



 …………

 ……

 …



 森の木々が、無残にもなぎ倒されていた。


 それをしたのは、ひと振りの巨大な斧――。


 それはピーターの火炎スキルを切り裂き、大地をえぐり。木々を吹き飛ばした。



 そして、それを投げたのは――。



「……チッ。小娘が」


 マントの男が、忌々しげに紫苑を睨みつけた。


 紫苑の投げた大剣が、真っ二つに折れている。


 斧の軌道を逸らすための犠牲だった。

 そうしなければ、おそらくピーターはその火炎ごと――。


「……もう一歩、だったか」


「わ、若松どの?」


「いや、声が違っ……」


 その瞬間、残りの二人の腕章が、青く光る。

 即座にエスケープが発動し、二人を会場へと戻していった。


 しかし中心の男だけは残っていた。

 彼はマントに手をかけると、それを脱ぎ捨てる。


 それは顔に大きな傷跡のある、大男だった。

 左胸には巨大な紅い魔晶石が埋め込まれている。


「…………ッ!!?」


 その顔を見た瞬間、おれは呼吸を忘れた。


 彼はこちらに、鋭い視線を向ける。


「……あのときの小増か。久しぶりだな」


「あ、あんたは、ば、ば……」


 おれは唇を震わせながら、その名前を呼ぼうとした。

 しかし、それは言葉にならなかった。


 姫乃さんが、慌てて肩を揺すってくる。


「祐介くん、なに、どうしたの?」


 その顔は、忘れもしない。



 ――坂東秀介。



 元、世界ランク総合3位。

 歴代トップの攻撃力を誇る、最強の先鋒。

 日本人では、川島さん、皐月さんの両名を抑えて初の『十三騎士』への加入を果たした。



 そして、アレックスの――……。



「ここまでだ」


 ピーターがおれの肩を叩いた。

 トワを背中に守るように、彼は剣を構えている。


「ここから先は、ボクらの仕事だ。キミは戻るんだ」


「で、でも……」


 利根のほうを見る。


「利根。これ、どういうことだよ」


「なにも聞かないほうが身のためだ。あなたより、そちらの女性のためにな」


 姫乃さんが、どきりとする。


「あ、黒木さん。この剣、貸してくださいね。わたしの折れちゃったんでー」


 そう言って、紫苑が彼女の大剣を奪い取った。


「え、あ、そ、それはいいけど……」


 すると突然、ぷにっと頬を突かれる。

 振り返ると、トワがにやにや笑っていた。


「お兄ちゃま。この二日、なかなか楽しかったぞ」


 いきなり頬に口づけすると、ふと真剣な表情で告げる。


「――次に生きて会えたときは、最後の記憶を返してやろう」


 ……え?


 その瞬間、腕章のエスケープが発動する。


 おれと姫乃さんの身体は、青い魔方陣に取り込まれていった。


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