40-5.もふもふの楽園?


「こ、これは……!」


 目の前にいるのは、大量のモンスターたち。

 しかしそれは、普段から見ているような厳ついやつらではない。


 もさもさした子犬のようなモンスターが、所狭しと敷き詰められていた。


 おれは、ごくりと喉を鳴らした。


「これは、もふもふ!」


 説明しよう!

 もふもふとは、なんかもふもふした生物のことだ!

 転じてハンター界隈では、毛並みの柔らかそうな小型モンスターを指す!


 その特徴はひとつ。

 なんかすごく可愛らしいのだ!


「きゃあああああああああああああああ」


 主任が黄色い歓声を上げて、そのモンスターの群れに飛び込もうとした。


「待てい」


 ぐいっと襟を掴んで、こちらに引き戻した。


「ぐへっ!? な、なにすんのよ!」


「落ち着いてください。あれはモンスターですよ」


「で、でも、こう、なんというか、いますぐあの中に飛び込みたい欲求が……!」


「わかりますけど、ちょっと待ってください」


 確かにもふもふというのは、非常に非力なモンスターたちだ。

 それを補うために、何体か集まって生息するのは珍しくはない。


 ただ、あまりに数が多すぎる。

 これじゃあ、まるでもふもふの楽え……いや、まるでこちらを誘っているかのようだ。


「……見ててください」


 おれは小石を拾った。

 それをぽーいっと、もふもふたちの中へと投げ入れる。


 その瞬間だった。

 もこもこっと、地面が盛り上がり……。


 ―――バクンッ!


 その場所に巨大な口が現れた。


「な、なによあれ!」


 主任が真っ青な顔で、それを見ていた。


「やっぱりか……」


 それは一見、食虫植物のような姿だ。

 しかし歴としたモンスター。


 ――キャンデーフライトラップ


 もふもふのような弱いモンスターを取り込み、それに近づいた生物を捕食する。


 しかしそれは共生ではなく、一方的な搾取の場合が多い。


 みーみーと、もふもふたちが助けを求めるように鳴いている。

 その尻尾が、フライトラップの根と同化してしまっていた。

 おそらく、逃げたくても逃げられないのだろう。


「気をつけてください。このもふもふの数だけ、フライトラップがいますよ!」


「そ、そんな……!」


 主任がぎゅっと拳を握りしめる。


「牧野、この子たちを助けることはできないの?」


「あの尻尾がつながった根を切り離せば、もふもふは助かりますけど……」


「…………」


 でも、ここは別の道を探して進んだほうがいい。

 ここにはここの生態系が存在する。

 おれたちが下手に介入すれば、厄介なことになるかもしれない。


「主任、とりあえず、元の道に戻って……」


「どりゃああああああああああああああああああ」


 ――ズバア――――ンッ!


 雄叫びとともに、フライトラップが真っ二つになった。

 そして、その個体と尻尾がつながったもふもふが解放される。


「しゅ、主任!?」


「それでも、わたしはこの子たちを放ってはおけないわ!」


「…………」


 まあ、このひとなら、そうするか。


 しょうがないな。


「危なくなったら、すぐエスケープで戻しますからね」


 おれは剣を構えると、フライトラップへと斬りつけた。

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