14-4.スライム万歳
おれたちはダンジョンに降り立った。
まるで森林浴をしているような、さわやかな空気が満ちている。
同時に、いつもは感じられない濃密なモンスターたちの気配も漂っていた。
「よーし。それじゃあ、さっさとやってしまいますか」
ぶー。
主任がふて腐れている。
さっきまでのわくわくテンションは見る影もない。
「ちょっと、そんな顔しないでくださいよ」
「だあーって。スライムって。こんなときにスライムって……」
「こんなときだから、ですよ」
主任が寧々に泣きつく。
「寧々さんも、それでいいんですかあ!」
「……つってもなあ。昔もゴールド・ラッシュはこれだったからなあ」
「えぇ!? 寧々さんたち、強かったんでしょ!」
「まあな」
あー、懐かしい。
学生のころも、ピーターたちが文句を言ってたっけなあ。
「あ、そうだ! もしかして、いつもとは違う特別なスキルを持ったスライムとか……」
「いつものスライムです」
「いつものって、アレでしょ!?」
「アレですよ」
「あのモンスター核を叩くだけで溶けちゃうやつ!」
「あのモンスター核を叩くだけで溶けちゃうやつです」
「そんなのがいいって言うの!?」
まったく、主任はてんでわかっちゃいないな。
「いいですか。稼ぎを狙うモンスターハントで優先させるのは、なにより効率です。効率というのは、一体あたりの報酬と、そのハント時間の比率です。その点においては、このダンジョンにあのスライム以上の獲物はいません」
「どうして?」
「あのスライムは慣れれば一瞬で狩れます。しかも他のモンスターと違って、素材を剥ぐ時間も必要ありません。これは理論上のデータですが、レジェンド・モンスターをハントするための時間をすべてスライムのハントに費やした場合、その報酬は前者の三倍になると言われています」
ちなみに外国にはスライム・タワーというものが存在するらしい。
10年間、ひたすらスライムを狩り続けた男が建てたもので、現在では世界の富豪100人に名を連ねている。
「じゃあ、どうして普段はスライム狩ってるひとがいないわけ?」
「それはモンスターの上限数の問題です。このダンジョンのスライムの生息数は三十前後。ノーマル・モンスターの再出現は丸一日だから、どうしても一日の稼ぎは低くなるわけです」
しかし、今日は満月期。
魔素が満ちたダンジョンでは、モンスターの生息数も格段に上がる。
「言いたいことはわかったわ。でも、あの金額を稼げるとは思えないんだけど……」
「主任。それは、これを見てから言ってください」
そうして、いつもの水場のある空洞にたどり着いた。
「ここが今日の狩場です」
「…………」
主任が絶句した。
「ほーう。相変わらず、すげえなあ」
寧々がうんうんとうなずいている。
スライム。
スライムである。
空洞の地面、壁、そして天井。
一面に、水色のぐにょぐにょしたスライムがびっしりと張りついている。
さながら大海原の中を歩いているような風景だ。
これがすべてスライムなのだから、いったいどれだけの数なのだろうか。
「今日のスライムは魔素を吸ってるぶん、モンスター核の質がいい。一匹も逃すなよ!」
「ハッ。誰に言ってんだよ!」
おれと寧々は剣を構えると、そのスライムたちの中に突っ込んでいった。
「……やればいいんでしょー!」
主任も叫ぶと、剣を構えて飛び込むのだった。
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