14-3.今回の標的はもちろん


「見て、牧野!」


 装備を整えて転移の間に向かおうとしたとき、主任が袖を引いた。


「これ、安いわ」


「え?」


 見ると、廊下に置かれたワゴンに大量のポーションが詰まれていた。


『本日限りの激安ご奉仕! 一個1000円!』


 ダンジョンで魔素の吸収を促進するアイテムだ。

 定価で買おうとすると、3000円ほどする。


 ……のだが。


「それ、裏返してみてください」


「え?」


 くるり。


「賞味期限、一か月前じゃないの!」


 他のも同じようなもののはずだ。


「まあ、ポーションの賞味期限なんてあってないようなものですからね。でも定価では売れないから、こういうときにまとめて売りさばくんですよ」


 ゴールド・ラッシュは経営者にとって、在庫を空にする絶好のチャンスだからな。

 普段はみんな買わないものでも、この日だけは飛ぶように売れる。


「ど、どうしようかしら……」


「いらないですよ」


「で、でもでも! 次の機会に必要かもしれないでしょ」


「いや、いらないですよ」


 じーっと値段と品物を見比べている。


「品質は変わらないのよね。なら……」


 ……このひと、実は片付けられないタイプなのかな。


「あ、マキ兄。ちょっと、こっち」


 そのとき、美雪ちゃんに手招きされた。


「なに?」


「実はちょっと、頼みたいことがあるんだよね」


「なに?」


「実はパーティメンバー、もうひとりお願いできない?」


 は?


 するとカウンターの向こうから、ひとりの少女が歩み出してきた。


 まだ中学生くらいの子どもだ。

 長い髪に、きりりとした目鼻。


 なんか、どこかで見たことがあるような……。


「この子、誰なの?」


「うちの親戚の子でね。ダンジョンに忘れ物しちゃったから、いっしょに取りに行ってほしいの」


「ダンジョンに忘れ物?」


 ということは、すでにダンジョン経験者ということか。

 ハンターに年齢は関係ないし、中学生だってプロ免許を持っているひとはいる。


「でも、大丈夫なの?」


「大丈夫、大丈夫。この子、すごく強いし」


「……まあ、美雪ちゃんがそう言うなら、そうなんだろうけど」


 目が合うと、少女は頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 なんか、すでに断りづらい雰囲気だな。


「……まあ、わかったよ」


 剣のことで世話になったし、このくらいはいいか。


「きみ、名前は?」


「ミコトです」


「わかった。おれは牧野だ」


 まあ礼儀正しいし、主任みたいに暴走する心配もないだろ。


 おれは彼女を連れて、主任たちのもとに戻った。

 と、案の定、妙な顔をされる。


「え。その子は?」


「なんか、美雪ちゃんの親戚だそうです。今日は、この子もいっしょに潜ります」


「…………」


「…………」


 主任と寧々が、顔を見合わせる。

 そうして、微妙な顔でおれを見た。


「さすがに未成年は……」


「あ、いえ。ダンジョンは経験があるそうなので……」


「そういう意味じゃなくて……」


 すると、寧々がおれの襟を掴んだ。


「……おまえ、ロリコンじゃないよな?」


「おい、どういう意味だ」


「いやほら、おまえってアレじゃん。ダンジョンに潜ると女にモテる謎スキル持ってるだろ」


「ねえよ!」


 と、そこで川島さんがおれたちを呼んだ。


「おい、次だぞー」


「あ、すみません!」


 おれたちは転移の間に入ると、装置の前に立った。

 青い光の渦が、おれたちの身体を包み込む。


 ミコトも落ち着いている様子だった。


 そこで主任が言った。


「それで、今日はなにを狩るの?」


 おれは彼女に向くと、にこりと微笑んだ。


「――スライムです」

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