14-2.持つべきものは?
今回の満月期は、ちょうど土日に重なった。
おれは金曜の夜から準備をして、朝一で『KAWASHIMA』に向かう。
――が。
「くそ、さすがに早いな」
すでにエントランスはハンターたちで賑わっていた。
そりゃそうか。
みんな、この日だけは数か月前から確認している。
満月期。
またの名を、ゴールド・ラッシュ。
今日は普段の数倍の量のモンスターが現れる日だ。
それもほとんどがレアものということで、稼げる金額も段違い。
いわばハンターのバーゲン・セールのようなものだ。
「マキ兄」
美雪ちゃんに呼ばれてカウンターに向かった。
クエスト申請用紙を差し出される。
「わかってると思うけど、今日は指定のクエストはないよ。好きなだけ狩ってくれれば、ぜんぶこっちで換金するから。でも……」
「あぁ、大丈夫だ」
今日は本来、ダンジョンに潜ることを推奨されていない日だ。
そんな日に潜るというのだから、身の危険は自分で守るしかない。
つまり、どんな危ない目に遭っても経営者はいっさい関与しないということ。
そのための契約書にサインをすると、おれは更衣室に向かった。
「……よし。もう潜ってるひともいるし、さっさと準備しなきゃな」
「そうね。わたしも着替え終わってるし、あんたもはやく着替えてきなさい」
「わかりました。じゃあ、少しだけ待っててください」
おれたちは顔を合わせると、にっと笑い合った。
「……どうしているんですか?」
主任がなぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ネットで調べたわ。こんな面白そうなイベント、あんたが黙ってるからでしょ」
「ふざけないでくださいよ! こっちは今日の稼ぎにかかってるんです! だいたい、今日は主任は入れないはずじゃ……」
と、主任が指をさした。
向こうで缶コーヒーを飲んでいた寧々が、こちらに手を上げた。
「よーう。わたしがパーティに入れてやった」
「なにしてんだよ!」
「しょうがねえだろ。その素人女、おまえの剣の代金が稼げないとやばいって泣きついてきたんだから」
主任がぶっと吹き出した。
「な、泣きついてません!」
「はあーあ。あんな真剣な顔で『いつも迷惑かけてるぶん、なにか手伝いたいんです』ってお願いされちゃあなあ。優しい寧々さんとしては無下にするわけにはいかねえよなあ」
「ちょ、それ、黙っててって言ったでしょ!」
がっくんがっくん揺するが、寧々はどこ吹く風だ。
主任が恥ずかしそうな顔でおれを睨む。
いや、おれが言ったことじゃないだろ。
寧々が肩をすくめた。
「それに、どうせおまえアレするんだろ? 頭数は多いに越したことないよな」
「……まあな」
おれはため息をついた。
「……わかりました。手伝ってもらいます」
主任がパッと顔を輝かせる。
「じゃあ、転移の間で待っててください」
そうして、おれたちのゴールド・ラッシュは幕を開けた。
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