14-5.断じて違う


「どりゃああああああああああ!」


 主任が剣を振り上げて斬りかかる。

 しかしスライムはシュバッと避けると、そのまま主任の足元を駆け抜ける。

 それに足を取られた彼女は思い切り転んだ。


「ほいきた、寧々!」


「あいよ!」


 そしてわらわらと襲い掛かるスライムたちを、おれと寧々でさばいていく。

 瞬く間にスライムたちは溶けていなくなった。


「よっと」


 最後に主任の顔に張りついた一匹をハントする。

 どろどろに溶けたスライムを拭いながら、主任が声を上げた。


「ちょ、ちょっと! さっきからわたしのこと囮にしてるでしょ!」


「人聞きが悪い。主任が勝手に突っ込んでいくんで、利用させてもらってるだけです」


「最低! あんた最低よ!」


 スライムは攻撃態勢に入ると、他への警戒心が低くなるからな。


「ていうか、いつもより強くない!?」


「そりゃそうですよ。魔素はモンスターの活動の原動力ですからね。魔素が濃いってことは、普段より動けるってことです」


「なら、どうして眠らせないのよ!」


「いや、魔素が満ちているときは睡眠薬の効果が薄いんですよ。あんまりたくさん使うと、おれたちのほうも眠くなっちゃうし」


 だから今日は、活動状態のスライムを狩らなければいけない。


「……ていうか主任、そろそろスライムのハントくらいできると思ってたんですけど」


「う、うるさいわね! 今日はたまたま、たまたまよ!」


「たまたまはいいですけど、さっきからスライム核を傷つけすぎです。せっかくのレアものなのに、これじゃ値打ちが下がってしまいます」


「もう! わたしはそういう細かい作業は苦手なの!」


「あれ見ても同じこと言えますか?」


「え?」


 目を向けると、一筋の光がきらめいた。


 ――シュパパッ。


 ミコトちゃんが、ふうっと息をつく。

 同時に、彼女の周囲のスライムたちがどろっと溶けて消えた。


 スライム核も傷一つない。


「……すご」


「本当に強いですね」


 軽やかな斬撃スキルもそうだが、さりげなく風属性のスキルでスライムたちの動きを抑えている。

 まるで華麗な舞踊を見ているようだった。


「ていうか、わざわざ手伝ってくれなくてもいいよ。ここが終わったらきみの用事を済ませるから、向こうで休んでても……」


 するとミコトちゃんは首を振る。


「美雪姉さんに、あなたを手伝うように言われました」


「え、そうなの? でも……」


 自分の金儲けを中学生に手伝わせるというのは、なんとも情けない気分だ。


「いいんです。わたしも得がありますから」


「得って?」


「いえ、こちらの話です」


 ……妙な子だな。

 まあ、人手が増えるのはありがたいけど。


 それからしばらくして、この空洞のスライムはほとんど狩りつくしてしまった。

 大きな袋にモンスター核を詰め込むと、ずっしりとした重みを感じる。


「……これだけあれば大丈夫ですかね。じゃあ、ミコトちゃんの忘れ物とやらを取りに行きましょうか。場所はわかる?」


「はい。ここから二層ほど下りたところです」


「よし。じゃあ、おれが先行するからあとについてきて」


「ありがとうございます」


 振り返ると、主任たちが疑わし気な視線を向けている。


「なんか小娘には優しくねえ?」


「牧野、ロリコンだったのね」


 うるさいぞ、そこ。

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