13-4.なるほどな


「……苦しい」


 おれはベッドで唸っていた。

 さんざん寝たせいで、目がぎらぎらとしている。

 そのくせ頭は重いし身体はだるい。


 ピーターと話しているうちに寝落ちしてしまい、こうして高校以来の風邪をひいてしまったわけだ。

 モンスターハントを始めてからは健康優良児だったのになあ。


「……しかし」


 なぜだ。

 どうして熱が下がらない。


 ちゃんと飯も食って薬も飲んでいる。

 それなのに一向によくなる気配がない。



 おれ、このまま死ぬのか?



 なんだろう、この心細さ。

 ダンジョンと違う、なんというかこう、心が押しつぶされそうな孤独感。

 ……参ってんなあ。



 ピンポーン。



「……誰だ?」


 おれはのそのそと起き上がると、玄関のドアを開けた。

 そして目の前の人物に目を丸くした。


「……主任?」


「あんた、ぜんぜん顔色よくなってないじゃない。ちゃんと病院行った?」


「は、はあ。すみません……」


「……行ってないのね」


 ハアとため息をつく。


 え、ていうか、なんで?


「入るわよ」


「え、あ、はあ……」


 頭がぼんやりしてるせいで、目の前で起こっていることに現実味がない。


「え。どうしたんですか?」


 彼女は平然とした様子でスーパーのビニール袋をテーブルに置いた。

 中にはなにやら食材が詰まっているようだ。


「決まってるじゃない。あんたの様子を見に来たのよ」


「え、あ、はあ。ありがとうございます」


 つまり、それはこういうことか?


 主任が、おれのお見舞いに来ている、ということだろうか。



 ……あぁ、夢か。



 それなら納得だ。

 ていうか夢にまで主任を見るとか、そうとうきてるな。


「ほら、あんた寝てなさい」


「はあ」


 言われた通り、ベッドに横になる。

 主任は断りもなくキッチンをごそごそやっていた。


「……思った通りね」


「なにがです?」


「これよ、これ」


 主任がぶらぶらさせたものを見た。


 カップ麺の空だ。


「あんた。家でもこんなもの食べてるわけ?」


「まあ、はい」


 いや、家でこそ食うだろ。


「こんなのじゃ治るものも治らないわよ」


 夢でまでお小言を頂戴するとは。

 まったく、風邪のときくらい休ませてくれよ。


「じゃあ、ちょっとキッチン借りるわよ」


「え。はい。どうぞ」


 主任は鍋を取り出すと、それに水を注いだ。

 米を入れて、それに火をかける。


 ビニール袋からネギを取り出して、トントンとみじん切りにする。


 ……うん?


「……主任、なにしてるんですか?」


「そりゃ、おかゆをつくってんのよ」


「どうして?」


「あんた、どうせ今日もカップ麺しか食べてないんでしょ」


 あ、なるほど。


 ……いや、なるほどか?

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