22-3.はじめてのダンジョン
「お二人ですね。ダンジョンのご経験は?」
「わたしが経験者です。彼は初めて。案内はいりません」
「かしこまりましたー。装備のほうはいかがしますか?」
「レンタルを二名ぶん、お願いします」
優花さんが手際よく登録を行っている。
その様子を、おれはぼんやりと見つめていた。
ダンジョン……。
話に聞いたことはあるけど、実際に来たことはなかった。
優花さん、どうしてこんなところに?
「クエストの登録が終わったよ。さ、この装備に着替えてきて」
「は、はい」
渡されたバッグはずしりと重かった。
言われた通り、更衣室でそれを開ける。
鉄の胸当てと、肘と膝のプロテクター。
こ、こうやって着るのかな。
外に出ると、優花さんはすでに『転移の間』の前で待っていた。
おれを見るなり、彼女はぷっと吹き出す。
「アハハ。それ、逆だよ」
「え、え?」
「プロテクター。膝に肘のやつをつけちゃってる」
マジかよ、格好悪ぃなあ……。
「す、すみません、着替えてきま……」
「いいよ。じっとしてて」
ふと、彼女がおれの前に屈んだ。
その体勢に、おれはどきっとして固まる。
なんか女のひとの頭のてっぺんが見えるのって、妙に恥ずかしいな。
優花さんはおれの膝の裏に手を回すと、ベルトを外す。
そして、それを差し出してきた。
「ほら。肘のも外して」
「は、はい」
慌ててプロテクターを外し、彼女に渡す。
その手から受け取ったほうを、肘につけ換えた。
「これでよし、と」
「あ、ありがとうございます」
「いいよ。さ、行こう」
そう言って、転移の間で順番を待つ。
前に並ぶ客たちが、次々に青い光の渦へと飛び込んで消えていく。
「怖い?」
「……は、はひ」
答えようとしたが、どもってしまう。
そんなおれを見て、彼女はまた可笑しそうに笑った。
――きゅっと手を握られた。
「緊張しないで。さ、次はわたしたちだよ」
「は、はいいいいい!」
彼女に導かれるように、おれは光の渦へと飛び込んだ。
まるで海の中を沈んでいくような感覚。
青白い粒子がキラキラと輝き、おれたちを導いていった。
そしてひと際、眩しい光の中に飛び込んでいったとき――。
――おれたちは、見知らぬ洞窟の中にいた。
「こ、これがダンジョン?」
「そうだよ」
等間隔で並んだ壁のランプ。
その灯りのために、思ったより視界は良好だった。
「はい、これ」
優花さんは空のバッグを差し出してきた。
「これは?」
「これに鉱石を集めるの。ほんとは雅人に持ってもらおうと思ったんだけど、部活だからダメだって断られちゃって」
――不意打ちに、ズキリと胸が痛んだ。
……あ、そうか。
まあ、そうだよな。
なに悲しんでんだよ。
こんなの、当たり前のことだろ。
「……わかりました」
「それじゃあ、ついてきてね」
彼女は先に歩き出した。
おれはため息をつくと、そのあとを追いかけるのだった。
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